……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-11
「その俺が余計なことをしたから……いちち」
「じゃあその余計なことを話してよ。ノリチン」
「たいしたことじゃないし、そこまで大げさにしなくても……」
「だめだよノリチン。ノリチンが我慢しても二人の間のわだかまりっていうの? そういうのが無くなるわけじゃないんだからさ」
たまにはまともなことを言うらしい理恵に驚きながらも、紀夫は話すつもりが無いらしく、頬の腫れ具合だけを気にしていた。
「あ、まあ、そのなんだ。わだかまりっていうか、そのなあ」
「うん。えっと、まあ暑さでカッとなっただけでさ……別に、ねえ」
幾分冷静さを取り戻したらしい綾と里美は言いづらそうに言葉を濁し、視線を宙に泳がせている。
「それじゃわかんないでしょ? これじゃあ叩かれたノリチンが可哀想じゃない?」
「ごめんなさい」
「面目ない」
空調の効いた涼しげな保健室のおかげか、珍しくまともな理恵に気圧されてか素直に謝る二人は、バツの悪そうに目を合わせたあと、しぶしぶ話し始める。
「あのな、里美があたしのジュースを飲んでさ、それで……」
「それで?」
「なんていうか、あたし他人が口にしたの飲むの苦手でさ、だからいらないっていっただけで……」
「それだけ?」
「そしたら紅葉先輩が「キスするとき大変ね。ゴム越しにするの?」とか言い出してさ」
「あたしもバカだからゴム越しにジュース飲めばって言い返しちゃって……」
「それを俺が下手に止めに入ったから……」
「ふーん。で紅葉先輩は?」
「逃げられた」
「さすが総体入賞しただけあるわね」
妙な感心を覚えてしまうが、問題はそこでは無い。
「んでも、アヤッチ、なんでそんなに気にするの? サトミンは別にばっちくないよ?」
「ばっちくないって……」
ぞんざいに扱われることに不満気な里美は両手をじっとみてしまう。そうしたところで細菌が見えるわけもないが、みょうな敗北感が残る。
「いや、その、なんつうの? 性格っていうか、性質っていうか、とにかく、その……」
「昔は普通だったじゃん。回し飲みとかしてたし、みんなでお好み焼きとか食べてたしさ」
「へえ、いいな」
「んとね、ウチの中学校の近くにあるんだけど、安くてボリュームがあるの。キャベツばっかりだけどね。そうだ、今度みんなで一緒に行こうよ。あやっちとサトミンの祝勝会にさ」
脱線から和解の場所へと持っていく手並は強引ながらも、彼女の人懐っこい笑顔ならそれも自然を装える。