バカの印-1
「バカ!」
「お前が言うな!」
「バカったらバカ!」
なんでもっと素直になれない?
麻紀が言うとおりホントに俺はバカだ。
お前は気付いてないだろ?
こんなに好きなのに。
2005年、夏休み。
もう10日以上会ってない。
家は隣だ。会いに行けない事もない。
だけどあんなに突き放されたんだ。
原因はなんだっけ?
あぁそうだ。
俺の悪口ばっか言いやがるから、俺も言い返してやったんだ。
そしたら怒って帰った。後片付けもしないで。
俺だって散々言われて軽く傷ついてんだよ。
俺は何も悪くないだろ?
俺の何が気に入らない?
少しは俺の我儘も聞いてみろよ。
ダメだ。
また自分中心に考える。
お互い意地っ張りなんだから、俺が折れないでどーすんだよ。
麻紀の言うことなんて流しちゃえよ。
俺が譲るべきだろ。
あぁ…。
謝れ。
麻紀のあの性格だ。あいつが引くとも思わない。
謝りたいけど。
俺が悪いワケでもないのに謝んのもどうかな。
夏休みもあと半月となった日、聞き覚えのある声が隣の家から聞こえた。
クラスメイトの井畑要だ。
麻紀を狙ってるって噂。
ここ1年で、麻紀はぐんと大人っぽくなった。
髪を茶色に染め、ファッションに関心を持ち、何より化粧に目覚めたのは大きい。
だから男が寄ってくるのも当然っちゃあ当然だが。
ムカつくんだよ、井畑のヤローは。
明らかに好きなんだろ、麻紀の事が。
問いてもしらばっくれやがって。
麻紀を狙う男は俺だけでいーんだよ。
あいつは俺のモンなんだよ。
だいたいお前はあいつの何を知ってる?
会って3、4ヵ月しか経ってないお前に何がわかる?
俺は16年間ずっと麻紀と一緒だったんだよ。
俺が生まれてから麻紀のいない日は無かったんだ。
何がわかんだよ。
「ねぇ、何処行くの?あたし今日これから用事あるんだけど…」
「じゃあここで話そうよ」
会話が聞こえる。窓を覗き込んでみると、玄関の外で2人が向かい合って立っているのが見えた。
「話すって…何を?」
「俺等付き合わない?って話」
…マジかよ…。
「え?…いや…ちょっと待ってよ…もし悠介部屋にいたら聞こえるよ?家隣なの知ってるよね?…ってあたし何言ってんだ…なんで悠介が出てくんの…」
「あぁ…まぁいいんじゃない。つーか聞いてもらった方があとで説明いらないし。ねぇ、単刀直入に聞くけど、神山の事どう思ってんの?」
「どうって言われても…何でそんな事聞くの…?」
「そんな事?俺にとっては超大事な事なんだけど。アイツ邪魔なんだよね」
「…邪魔?」
「そう、邪魔。神山悠介はいらない」
「………」
「…ホント無駄なんだよ…いつもいつも俺の前に現れて余計な事しやがって…」
そりゃぁお前なんかに麻紀を触れさせないためさ。バカかテメェは。
俺から見りゃあお前の存在は無駄だね。