由里子と先生2〔特別編〜茜色の保健室で〜〕-5
「どう…って。」
由里子は正直どう答えたらいいのか解らなかった。
ひと月前、佐々が由里子に与えてくれた包み込むような優しさを、由里子は心地いいと感じ受けとめた。
ただそれが恋人に対する気持ちと同じだったのか?と聞かれたら、由里子は迷ってしまうだろう。
佐々に抱いている尊敬や信頼の気持ちを、あえて何かの存在にたとえるなら、それはきっと恋人と言うよりは兄に近いかもしれない。
ただ、今この場でその気持ちを口にすることは、佐々を怒らせてしまいそうで怖かった。
目の前の自分に怯え、今にも泣きだしそうな由里子の顔に、佐々はハッと我に返り両手を離した。
『由里子ごめん…。俺どおかしてる。』
「どうか…って?」
由里子は恐怖の余り震える腕を両手で抱え、おそるおそる佐々に尋ねた。
『やっぱり俺はお前がスキだ!』
佐々はうつむき両手を固く握り締め、弱々しい声でそう言った。
由里子には佐々が泣いているように見えた。涙は流れていなかったが、それでも佐々は泣いていた。
佐々はもう限界だった。
教師という名の見えない鎖に繋がれ、愛しい女を前にしてどうすることもできない自分が惨めだった。
その時だった!
「由里子、男の人とHしたことないけど、先生がそうしたいならしてもいいよ。」
由里子は突然、まっすぐ佐々の目を見てそう言った。
『お前、自分で言ってることが解ってんのか?』
佐々は由里子の本意が解らず困惑した。
「由里子だって先生のことがスキだよ!…ずっと苦しかった。」
そこまで言うと、由里子は愛くるしい顔を歪ませ、両目から大粒の涙をポロポロと流して泣きだした。
あーっ、スキな女にここまで言わせる俺ってサイテーだな…。
佐々は完全なる自己嫌悪に陥っていた。
佐々は背はさほど高くはないが、細身で筋肉質な引き締まった体は健康的な男性の魅力に溢れていた。
顔は一見すると涼しげな目元がクールな印象を与えるが、くしゃっと笑った時の表情は、28才の今も無邪気な少年の面影を残している。
佐々は世間一般的に見ても、かなりもてる方だろう。
クラスの中でも佐々に構われたくて、まとわりつく女子生徒も多かった。
佐々のプライベートでは、言い方は悪いが声を掛ければ比較的簡単に自分のものになる女性は多かった。