由里子と先生2〔特別編〜茜色の保健室で〜〕-3
佐々が机の上で、採点途中のプリント類を手早く片付けているような、紙のこすれ合う音がした。
音が止み、佐々がゆっくりと由里子のベットへと近づいてくる。
『起き上がって大丈夫か?頭は痛くない?』
佐々はベットの横に置いてある椅子に腰をおろしながら由里子に尋ねた。
「うん、まだちょっとぼんやりしてるけど、もう頭は痛くない。」
佐々が椅子に腰をおろしたことで、由里子と目線の高さがちょうど合い、急に佐々を近くに感じた。
『そうかぁ。それなら良かった。』
佐々は由里子の言葉を聞き、本当に安心したようだった。
『俺お前が倒れたとき、みんなの前だったから、たいしたことないってフリして教室を出たんだけど、ぐったりして動かないお前を抱いたまま、もしこのまま目を覚まさなかったら…って考えたら、こわくて足が震えたよ。』
佐々はそう言い、由里子を見て照れたように微笑んだ。
佐々の飾らない素直な告白が、由里子の胸をキュッと締めつける。
「ごめんね、先生…心配かけちゃった。」
由里子は一瞬にして佐々の優しさに満たされた。
佐々は、椅子から立ち上がり、由里子のベットの脇にそっと腰掛けた。
返事の代わりに由里子の小さな両手を取り、そっとおでこ同士をくっつけた。
由里子はそんな佐々の、子供っぽく優しいしぐさに懐かしさを覚え、幼い少女のように頬を赤らめた。
この前佐々とキスを交わしたのは、もうひと月も前のことだった。
数学準備室で佐々と2人きりになった時、由里子は思いがけず佐々からの告白を受けた。
担任になり由里子と出会った頃から、気になる存在だったこと。
教師の自分が11才も年下の生徒を好きになるなんて、許されないと自分を責め続けてきたこと。
由里子はそのとき初めて、そんな佐々の想いを知ったが、イヤな気持ちはしなかった。
『由里子への気持ちを断ち切りたい!そのために一度だけ、俺とキスをして欲しい。』
あの時佐々はそう言った。
無茶な頼みだとは感じながらも、佐々の真っすぐさに魅かれ、由里子はキスを受け入れた。
由里子はあの時以来、事あるごとに佐々とのキスを思い出した。