『秋の空と思い出語り』-1
ピ、ピ、ピ…ヴゥーー…
帰り道ですっかり冷めてしまったコンビニ弁当を電子レンジで温め直す。
どうせ冷めてしまうのだから、買うときに温めてもらわなければいいのだけれど、「温めますか」と言われると思わず「はい」と言ってしまう。どうせ数秒しか待たない訳だし。
程なくして電子レンジが調理完了の音を上げる。
今日も指一本で作った料理が夕食だ。
最近はコンビニ弁当ばかり食べている。おかげで近所のコンビニの弁当事情に無駄に詳しくなってしまった。すこしずつ堕落しかけたこの生活は、改善する必要アリだな。
改善と言えば、僕と柊子の関係について、今日柊子に言われたことを思い出す。
あいつは今日、友達でいるのはもうやめよう。と言った。
もう僕のそばに居るのは辛い、と、もう僕のことを忘れたい、と言った。
僕の心を少し軽くしたせめてものことは、今日柊子がそれを言った時、真直ぐな表情であってくれたこと。泣き顔でも、作り笑顔でも無い。
それを聞いた時、ひどく複雑な気持ちになった。その中に割合多く含まれているのは、自己嫌悪、あの時、友達でいようと言った僕への。つまりは後悔だ。
あの、夏の終わりの夜、柊子が僕に向けた笑顔も、言った言葉も、全部強がりの嘘だって、本当は気付いてたはずなのに。なのに柊子の優しさに頼って、以前と同じように接していた。
でも、今日の柊子の顔を見て、言葉を聞いて、自分がいかに酷いことをしていたかを思い知らされた。
だから、友達でいるのをやめる。それが僕たちにとって正しい方向なんだと思った。
今日から、僕たちは正しい方向へと、関係を改善することにしたのだ。
いつか柊子が僕と一緒に居てもつらくならない日が来るまでの、一時的な絶交。「多分、それが正しい…。」
誰に言うとも無く、一人僕は呟いた。
それを肯定するように静寂が言葉を吸い込んでいった。
パタン…
立ち読みしていた雑誌を閉じ、もとあった場所へ戻す。
せっかくコンビニまで来たから、何か買っていこうかと思い、スナック菓子の並ぶ棚の間に歩み入った。
僕が商品棚の前で何を買うかを悩んでいたら、ひょい、と僕の肩越しに手が伸びてきた。
すらりと細く長い指を持った、女性の手だ。
その手の主はスナック菓子の袋を一つつまむと同時に、僕に言った。
「これ、オススメだよ。」聞き覚えのある声。僕は振り向いた。
「榎奈…。」
「やぁ。奇遇。」
榎奈（かな）は塞がっていないほうの手を軽く上げた。
二人並んでコンビニを出た。僕の手にはさっきのスナック菓子の入ったビニール袋がぶら下がっている。
「いつもこのコンビニに来てるの？」
「あぁ、まぁね。」
「へぇ、じゃあ奇遇ってこともないか、私もいつもここに来るから。寧ろ今まで会わなかったことが不思議だね。」
「そういえば、そうなのかな。」
秋の高い空の下、僕らは適当に世間話をしながら一緒に歩いた。ほんの少しだけ、僕は緊張した。
不意に、榎奈が思いがけない話題を切り出した。
「ねぇ、最近少し気になったことがあるんだけど。」「何？」
「キミと水森さん、何かあったの？」
「え…。」
僕と柊子の間に何かあったか。
無論「何か」はあった、でも榎奈が言っているのが一月前のことなのか、昨日のことなのか分からない。
「キミと水森さん、ここ最近様子が変だな、って思って。」
「そうか？」
「うん、前と変わらないようにも見えるけど、なんとなく水森さんと話してるときのキミの顔が、すこしだけぎこちないと思う。」
気のせいじゃないか？
そう言ってはぐらかすこともできた。でも僕はそうしなかった。
僕自身ですら気付いていなかった機微に気付いている相手を、本来言い訳をすることすら下手な僕が巧く騙せる訳はないと思った。いや、ただ単に僕は話してしまいたかったのかもしれない。どうしてかは分からないが。