投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『秋の空と思い出語り』
【青春 恋愛小説】

『秋の空と思い出語り』の最初へ 『秋の空と思い出語り』 3 『秋の空と思い出語り』 5 『秋の空と思い出語り』の最後へ

『秋の空と思い出語り』-4

「違うよ。そうじゃなくてね、キミはあの頃からもう大人だったんだよ。だから変わってない。」
「そうかな。」
「そう、だから私はあのときキミをなんとなく諦めたの。自分とは釣り合わないって思って、ね。」
そんな、理由で?
「錯覚だよ。きっと。」
僕は短く反論した、そもそも僕は、今でさえ自分が大人だなんて自信を持って言うことができないくらいなのに。
「錯覚かもしれないけど、とにかくその時はそう思ったの。」
「そう。」
どこか他人事のように僕は返事をした。
自分たちの過去、それも、本来は秘密にしておくような事柄を話しているのに、僕らの会話のテンポは不思議に淡々としていた。
「がっかりした?」
「どうして?」
「だって、中学時代、両思いだったんだよ。それなのに付き合えなかった。」
「…いや、そうは思わない。むしろさ、友達のまま別れたから、また友達で再会できた。もし、そうなってたらどんなふうに再会したか分からない。こうして話すこともできなかったかもしれない。」
僕は視線をグラウンドの中央から、榎奈のほうへ移した。逆に榎奈は、視線をグラウンド中央へと投げた。「キミらしいね。」
と、そう言った。
中学生の僕をよく知っている榎奈に、今の僕の台詞を「キミらしい」と言われては、やっぱり僕はあまり変わっていないんだな、と思う。
キシ…という音を立てて榎奈はフェンスから背中を離した。
「それじゃ、そろそろ帰ろうかな。」
「こう言うとじいさんみたいだけど、昔話も、それなりに楽しいもんだったな。」
僕はそう言った。ただの挨拶代わりの何気ない台詞。でも、榎奈はその台詞に意外な反応を見せた。
「昔話、か。」
呟くように言ってわずかに微笑んだ。その微笑の種類は、苦笑、が正しいだろう。
「さっきキミに『好きだった?』って聞いたよね。その時『好きだった』って即答したでしょ。それ、すこし悲しかった。その『好きだった』は確実に過去形だったから。」
「お前だって『だった』って言っただろ。」
僕はさっきの会話のテンポを取り戻そうとして、そういう口調で言ったが、あまりうまくいかなかった。
「『だった』には二種類あるんだよ。過去形と、現在完了形。私のは…後のほう。」
つまり、現在完了形。…え?
まさか。
そう言いたかったけど言葉はうまく喉を通ってこなかった。
「それじゃね。」
微笑んで、手を振った榎奈は、回れ右をして歩き出した。
「えっ、ちょっ…。」
ピイィィーーーーー!
呼び止めようとした僕の小さな声は、前半終了のホイッスルにかき消された。やがてその響きも、高い空にゆっくりと吸い込まれていった―――……。

ピ、ピ、ピ…ヴゥー
一度は冷めたコンビニ弁当を電子レンジで温め直す。温めなおすのに必要なのは指一本だけ。あっけないほど、簡単だ。
榎奈の台詞を思い出す。
『実は、私も好きだったよ。』
今も?
胸が少しうずく。
あのあと、追いかけることもできた。ちょっと走りよって「今の本当か?」と聞くことはできた。でもそれをしなかったのは、それが聞かなくても本当だって分かってたから。あの笑いかた、あの笑いかたをした時は嘘じゃないんだ。昔と変わらない。それを覚えていた自分にも驚いた。
「なんで…。」
意味もなく、そんな呟きがもれた。
榎奈は僕のこと、あまり変わってないって言ったけど、やっぱり僕だって変わった。
前よりも、ずっと冷めているようになった。
…今思えば、それは榎奈への気持ちが冷めていくのと同時に、だった気もする。そうだよ、冷めたはずだ、榎奈への気持ちも、確実に。
でも、冷めただけで、無くなってはいなかったのかもしれない。
証拠に、一度は冷めたにも関わらず、また今、熱が取り戻されつつある。あっけないほど簡単に。それを僕は確実に感じている。初めて自分の気持ちに気付いた時と同じように、漠然とした不安と、少しの胸の高鳴りを伴って。

電子レンジの中で、コンビニ弁当がゆっくりと回っている。
僕は部屋の中で一人寝転んで、熱が取り戻されていく音を聞いていた。


『秋の空と思い出語り』の最初へ 『秋の空と思い出語り』 3 『秋の空と思い出語り』 5 『秋の空と思い出語り』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前