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『秋の空と思い出語り』
【青春 恋愛小説】

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『秋の空と思い出語り』-3

「高校でサッカーやめたんでしょ。どうして?」
榎奈が聞く。
榎奈とは高校は別だった。大学で再会したときは、少し複雑だったけど、やっぱり嬉しかったと思う。
「さぁ、なんでだろ?つまんなくなったから、かな。つばきもやめたし。」
つばきとは中学からずっと一緒だ。僕がサッカーをしていた半分の理由が、つばきに引っ張られたから、だった。もう半分は…
「へぇ。」
榎奈の相槌と同時に、主審の笛の高い音が鳴る。
ゴールネットが揺れている。嬉しそうに笑い、走る、得点を決めた選手。
「あ、今のヒトかっこいいな。得点決めたヒト。」
指をさして榎奈が言う。
「おいおい、中学生だぞ。」
あきれて僕が言うと、真剣な顔で反論された。
「キミは中身より外見で人間を決める人なの?」
「いや、年齢は中身に含まれるだろ。」
榎奈は首を振る。
「大事なのは精神年齢。20代だって中学生くらい子供な人だって居るかもしれないし、中学生でだって私たちよりも大人な人もいるかもしれないじゃない。」
それはそうかもな、とも思う。でも
「でも、お前が今かっこいいって言ったのは、外見だろ。」
「ん、まぁ、そうだけど。」
人差し指で耳の後ろのあたりをかきながら言った。照れた時の榎奈の癖だ。中学時代から変わらない。
僕は視線をグラウンドの中央に戻した。でも、僕の瞳は、実際に見えている風景ではなく、その風景のうしろに映る、セピア色の過去の風景を捉えていた。その色は、秋にとても似合っている気がした。
榎奈のほうをちらりと見ると、榎奈は日差しに少し目を細め、グラウンドを見ていた。きっと僕と同じような風景を見ているのだろう。その表情には、目に見えない影のようなものがある、過去を想う人間の顔はきっとだれでもそんなふうになるのだろう。
昔の僕らには、そんな表情はできなかったかもしれない。
中学時代の榎奈は、いろんな表情をする奴だった。それは感情とまっすぐ繋がっていて、コロコロと変化した。その、ある意味で刹那的な表情のひとつひとつが眩しかった。
僕には真似できないことだと思った。だからだろうか、僕は…
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…いい?」
まだ半分、過去の風景にひたった瞳のままで、榎奈が言った。

「何?」
「中学時代、ひょっとして私のこと、好きだった?」「うん。」
「…そっかぁ。」
僕が、何も隠さずに、本心(だったこと)を言うと、榎奈は少しだけ残念そうな顔をした。

「実は、私も好きだったよ。」

「まさか。」
冗談だろ?というように僕は言った。
「本当の話。」
抑揚の少ない冷静な声で言う。
「だって、お前彼氏いただろ。」
僕もそんな声でいう。
「好きな人を忘れるために、他の人と付き合う。結構ありがちなパターンじゃない。」
「腑に落ちないな。忘れる必要なんて無かったと思うけど。俺はあのとき、他に付き合っている人がいたわけでもないし、それにお前は俺がお前のこと好きだったってことに薄々感づいていたんだろ?」
僕のその問いかけに答える代わりに、榎奈は薄く微笑んだ。その、読み取りづらい笑顔を少しの間僕にむけてから、後ろのフェンスに体重をかけてもたれかかった。キシ…と音がする。
「私、変わったと思う?あの時にくらべて。」
話しを逸らされた。僕はそう思った。でも、おとなしくその話題に従った。
「変わった、と思う。なんていうか、大人っぽくなった。当たり前と言えば当たり前だけど。」
きっとそれは榎奈の望む通りの解答だったのだろう。満足そうに顔を上げた。
「うん、私もそう思う、大人になったなって。でも、キミはあの頃とあんまり変わってない。」
「子供のまま、成長してないってこと?」
榎奈は首を静かに横に振った。


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