投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『秋の空と思い出語り』
【青春 恋愛小説】

『秋の空と思い出語り』の最初へ 『秋の空と思い出語り』 1 『秋の空と思い出語り』 3 『秋の空と思い出語り』の最後へ

『秋の空と思い出語り』-2

「ふぅん。そうだったんだ。水森さんカワイそう。」僕の話しを聞いた後の、榎奈の感想を述べる声は、淡々とした調子だった。
いつも榎奈はそんな風に人の話を聞く。別にどうでもいい、というような感じで。もちろん実際にはそんな風には思ってないだろうが。
だから、かわいそう、なんて皮肉っぽい台詞なのに、嫌な感じはしなかった。
むしろ少し気持ちが軽くなったくらいだ。
「うん、柊子には悪いことしたと思ってる。」
僕は言った。
「それは、振ったこと?それとも、振ったのに友達でいようとさせたこと?」
声の調子を変えず、榎奈は言う。
「後者かな。」
僕は言った。榎奈はそっと、歩道の端に積もった街路樹の枯葉を蹴った。
「でしょうね。つらいもの、欲しいものがすぐ側にあるのに、それを手に入れられないっていう状況。未練と後悔だけが積もっていく。それに、繋がれたまま『次』に行くこともできないし。」
それを僕は、全然分かってなかったんだ。自分は頭がいいほうだとは思っていなかったが、自分をこんなにバカだと思ったのは初めてだったと思う。
その暗い表情から僕の感情を読み取った榎奈が、言う「でも、それももうやめたんでしょ。ならもう気にしないほうがいいわよ。」
と、相変わらずの口調で。「そうかな。」
「そうよ。キミが半端な罪悪感なんて感じたままでいたら、居心地悪くなるのは水森さんのほうだよ。」
「そうかな…。」
それを肯定するように、榎奈は、今度は無言で僕の肩を叩いた。軽く、ポン、と。
その、ポン、の拍子に吐き出した少しの息は、ついでに僕の中にあったネガティブなものをその分だけ連れて、風に乗って高い空に上っていった。そんな気がした…。
「あれ?」
突然、榎奈が声をあげる。何かを見つけたようだ。
その視線の先を追うと、そこは中学校のグラウンドだった。中学生がサッカーの試合をしていた。
「ねぇ、ちょっと見ていかない?」
言いながら既に小走りでグラウンドに向かう榎奈の後姿は、さっきまでの横顔とは違って無垢な表情を持っていて、自然、僕の顔はほころぶ。
僕はその背中の後を軽い足取りで追った。


「なんか、懐かしいね。」榎奈は言う。
僕らはグラウンドの中に入り、端のフェンスに寄りかかって試合の様子を眺めている。
「中学時代みたい、か?サッカー部のマネージャーだった。」
うん、と榎奈は頷く。
「キミは懐かしくない?そのサッカー部員。」
「まぁ、俺は観るほうじゃなくてプレイするほうだったし。」
「補欠だったのに?」
「3年になってからはスタメンだっただろ。」
「わかってるよ。」
からかわれて、僕が反論、笑ってまた返される。本当に中学時代みたいだ。
そう思うと、懐かしさとともに、気恥ずかしさも胸の中でうずいた。
中学時代、あのころは楽しかったな。それなりに嫌なこととかつらいこともあったはずだけど、思い出の青いスクリーンには楽しいシーンばかりが色鮮やかに映し出される。


『秋の空と思い出語り』の最初へ 『秋の空と思い出語り』 1 『秋の空と思い出語り』 3 『秋の空と思い出語り』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前