彼氏(仮)──疑問-1
左右に開いたドアの向こうへ、押し出されるように流れ出る。
車両の中の蒸し暑さから漸く解放され、私は手で顔を仰いだ。
定期券を取り出し、改札を抜け、人混みにまみれながら構内を出た。
暑い。
とにかく蒸し暑い。
気持ち悪く貼り付くシャツを引っ張りながら、私は学校へ向かう。
その時
「おはよ」
という低い声と共に、背の高い男が私の肩を叩いた。
……アイツだ。
「なんか用?」
あからさまに不機嫌な声色で言ってやった。
「ご挨拶だなぁ〜。こっちはずっと待ってたのに」
私、頼んでませんけど?
「彼女と登校するのは自然なことだろ?」
「アンタねぇ」
「遼」
「……え?」
「河中遼。俺の名前。
彼女なんだから遼って呼べよ。
これ、命令だから」
おでこを人差し指で押された私は、何故か彼に命令されていた。
「あー……遼、クン?」
「なに〜?」
「彼氏って言ったって、来月頭までじゃない?」
「確定はしてないけどな」
確定させます、必ず。