白夜の街-3
ある日、ラドルフ家にヴィクトルがシャム双生児を連れてきた。ヴィクトルは二人の裸の写真を撮ったりして商売にしていたが、この兄弟には音楽の才能があった。ヴィクトルは兄弟をラドルフ家に住まわせようと考え、ヨハンに気に入ってもらうために歌をうたわせた。
「単調に鈴が鳴り道に埃が舞う
平原を陰鬱に御者の歌が満たす
この陰鬱な歌 なじんだ旋律に
冷え切った心が炎と燃え上がる
そして夜思い出す
故郷の野と森を
乾ききった瞳に
涙があふれきらめく
単調に鈴が鳴り遠くにこだまする
御者は黙り込む
道はまだ果てしない
道はまだ果てしない」
その歌声はリーザに、遠い過ぎ去った日々を想起させた。母がまだ元気だった頃、父と3人で旅した原野。あのときの頬に当たる風の感触がなぜか甦った。
兄弟はリーザと暮らすことになった。
ヨハンは兄弟に無理やり酒を飲ませようとした。兄のコーリャはそれを拒んだが、弟のトーリャは酒の味を覚え少しずつ溺れ始めた。リーザは二人の面倒を見、ともに暮らした。コーリャはリーザに恋した。
「月光を浴びて雪は銀色に輝く
トロイカは道を飛ぶように走る
リン リン リン鈴の音が響く
この音 この響きが
私に語りかける
月の光の中まだ早い春に
覚えているか 友よ
あの出会いの日を
君の若い声は
鈴のように響いた
リン リン リン
甘く愛を歌っていた」
「この街、嫌い」
リーザがつぶやいた。
「西に走り続ければ陽は沈まない」
「すごく速く?」
トーリャとチェスをしていたコーリャが言った。
「パパの生まれた東に行こう」
トーリャが言った。
そのとき、ヴィクトルがピアノを運んできた。
「ほら」
それからヴィクトルは兄弟に酒を差し出した。
「トーリャ、飲むな!」
「少しだけ」
「リーザ」
グルーニャの呼ぶ声がした。リーザは服を脱いで隣室に向かった。
「さあ、やろう」
リーザを気遣うコーリャを連れて、トーリャは鍵盤に向かった。
「ばあや」
ヨハンの声だ。兄弟はピアノを弾き始めた。開け放たれた扉の向こうから、乾いた鞭の音が響いてくる。ピシッ、ピシッ。
「いけない子だね。なぜわからないの」
「嫌いよ。あの男も。この死んだ街も。クリームと人参も」
「リーザ、僕って変?」
コーリャが言った。
「とってもステキよ」
「でもダメだ。トーリャがいるから。いつも一緒だから。でも僕はまともだよ。彼らが変だ。女性を愛すのに鞭はいらない」
プチーロフはヴィクトルの家からカメラと撮影したフィルムを奪って逃げた。ばあやは死に、そのショックで発作を起こしたヨハンは寝込んだ。グルーニャも放心状態になった。兄弟は東に旅立とうとしていた。