投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

やわらかい光の中での最初へ やわらかい光の中で 89 やわらかい光の中で 91 やわらかい光の中での最後へ

やわらかい光の中で-90

総合職に拘り、就職した会社は誰もが知る有名な会社ではなかった。それでも仕事は忙しく、自分が思っていた以上に仕事のできない自分に腹が立った。それを誰かにぶつける事はしなかったが、悪戯にイライラは募り、無意味にストレスを溜めた。どうにかして這い上がりたいとも思っていたが、1度狂い始めた歯車は、なかなか元には戻らず、彼女の努力は空回りを繰り返した。
そして結局、直樹の助言に従い、会社を辞めた。
彼女は派遣で働いている事に不満を感じていた。しかし、その不満を解消するための努力はしなかった。
心のどこかで、直樹が辞めろと言ったから会社を辞めたのだと、自分の決断を彼の責任にしている気がしていた。それを言葉にした事はなかったが、一瞬でもそう思った自分の愚かさが情けなかった。

その後ろめたさから、彼女はそれまで以上に直樹に尽くすようになった。
彼のために洗濯し、食事を作り、掃除をした。彼の都合に合わせ、生活するようになり、彼の意思に従うことが増えていった。

しかし、働きながらの家事は楽ではなかったし、いつでも彼の言いなりになっている自分が寂しくもあった。

そして、彼はそんな彼女を労う事はなかった。

同棲を初めたばかりの頃こそ、感謝の言葉や思いやりはあったが、2人の生活に慣れると、彼もそれが当たり前のような振る舞いになっていったのだ。

養っているという自信からか、直樹は束縛が激しくなり、少し帰りが遅いと不機嫌になった。彼女が自分の思い通りにならないと小言を言うようになり、イライラしている事も増えた。
以前のような彼女への思いやりを感じられる事が少なくなった。

だから家を出て、もう一度、2人の関係を立て直したいと思ったのだ。それでも彼が好きだったからだ。もはや幸せになれる関係ではなかったのかもしれないが、彼の事を愛していた。
それは、長年付き合った情なのか、真の愛なのか、それらとは全く関係のない感情からなのか、その時の彼女は何も理解していなかったが、漠然と、もう一度やり直すチャンスが欲しいと思ったのだ。

その甲斐あってか、同棲を止め、彼女が家を出て半年が過ぎた頃、2人は正式に婚約した。
少し距離を置いた事で、2人の間に新鮮な空気が流れ、彼も以前のように優しく彼女に接してくれるようになったのだ。

そして再びプロポーズされてから、彼女は新妻気分で直樹の部屋に通い詰めた。
その時の彼女は幸せそのものだった。

ところが、お互いの両親への挨拶が済み、そろそろ結婚式の日取りを決めようかという時期になって、直樹の態度が、また、少しずつ変わっていった。
帰宅時間が遅いと文句を言うようになり、女友達と飲みに行く事さえ嫌った。友人との旅行計画を話すと、あからさまに不機嫌になり、彼女が自分の思い通りにならないと口を噤み、態度で怒りを表すようになった。

そんな直樹を見て、彼女は更に萎縮した。
そして、その束縛は束縛どころか支配へと変化していった。

しかし、それについて彼と話し合う事は、既に彼女にはできなくなっていた。
話しても、結局は彼に説き伏せられ、その態度に威圧感を覚え、彼女は言いたい事の半分も言えないまま、その話し合いが終わってしまう事がわかっていたからだ。
直樹の前で感情を剥き出しする事には、昔から嫌悪感があった。自分でも気が付かない間に、そんな関係が出来上がってしまっていたのだ。


やわらかい光の中での最初へ やわらかい光の中で 89 やわらかい光の中で 91 やわらかい光の中での最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前