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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-91

2人の会話が減り、彼女の足が彼の部屋から遠退いていく中、結婚の話は次々に進んでいった。式場、日程、出席者数、テーブルの花や招待状…それらは事務的にテキパキ決められ、彼女はその現実に不安を感じていた。

直樹を知る友人にそれを話すと「マリッジブルー?」と茶化されたが、彼女はとても笑えなかった。自分でもただのマリッジブルーだと信じたかった。

だが、それはできなかった。

このまま一生、直樹の顔色を伺いながら生きていく事に疑問を感じていた。疑問を感じながらも、彼と向き合い、話し合う勇気も、彼と別れる勇気も彼女にはなかった。

そうして、彼女の笑顔は日々、失われていったのだ。




そんな頃、千鶴の前に現れたのが内藤慎治だった。
彼は彼女の派遣先の英会話教室に通う生徒の1人だった。外資系の大手企業に勤める慎治はそこでビジネス英語を習っていた。
たまたま千鶴と同じ駅に住んでいて、ある日、彼が教室に忘れた書類を彼女が届けたのが、話す切掛けとなった。

2つ年下の彼をかわいいと彼女は思った。慎治が千鶴に好意を持っている事は明白だった。そして、彼女はそれを知りつつ、彼の側から離れなかった。慎治と一緒にいると自然と笑顔がこぼれ、直樹との不協和音を忘れる事ができたからだ。

「もしかしたら、この人が私をこの現実から解放してくれるかもしれない」

期待に似た願望が彼女の胸に去来した。

暫くして彼に告白されたが、招待状も送ってしまって、そう簡単に慎治の胸に飛び込む事はできなかった。もう一押し、慎治からのアピールを待った。

そして、そんな事を冷静に考えている自分を自分で蔑んだ。

結婚式が近づき、彼女が結婚の為に仕事を辞めた直後、慎治にドライブに誘われた。
千鶴はこれが最後のチャンスと思いながら、その誘いを受けた。
自分が何をしているのかはよくわかっていた。けれども慎治に強引に連れ去られたい願望は、消える事はなかった。

…結局、慎治とは何も起こらなかった。

その最後の夜、彼女のアパートの下で、千鶴を見送る慎治を初めて振り返った。彼が、アパートまで彼女を送った後、部屋に入るまでその姿を見つめ続けている事を、彼女は知っていたからだ。
その日も彼は暗がりからじっと千鶴を見つめていた。
その彼の真っ直ぐな姿を見て、自分のやましい期待は綺麗さっぱり捨て去らなければいけないと思った。

そして、自分の部屋のドアを、直樹との結婚へ向け、力なく開いたのだ。

ところがある日、偶然、駅の近くで慎治に会った。
それが、神様の悪戯でなければ、何だったのだろうかと今でも思う事がある。
諦めていた彼女に微かに光が見えたような気がした。

彼女は結婚式場へ1人で打ち合わせに行った帰り、地元で駅前のドラッグストアに立ち寄った。
元々、無意味にドラックストアに入る癖があった。目新しい商品を見つけるのが好きだったのだ。その日も初めて目にした商品を意味もなく買い、その袋を手から下げたまま、店から出た。

ふと、目の前の改札口に目をやると見慣れた男が改札口を抜ける姿が目に留まった。

会社帰りの慎治だった。


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