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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-22

 勿論、プランナーとして活躍する社員やフリーのクリエーターの中には、女性もいたが、社会の中にねっとりと存在し続けている「男性社会」の構図を、彼女ははっきりと認識していた。
 
 しかし、その社会構図を否定するつもりは、彼女にはなかった。

 男女雇用機会均等法がいつ成立したのかも定かではない世代に育った裕美にとって、女性が社会で活躍することは、ごく自然なことだった。
 無意味に肩に力を入れる必要もないし、好まざるならば派遣や契約社員で、事務の仕事をする道もある。
 女性は単に、選択肢が増えただけなのではないかとさえ、彼女は考えていた。
 常に変化している時の中で、急激に変わるモノ、少しずつ変化していくモノ、殆ど変わらないモノがあるのは当然だ。
 彼女は、男性社会と云う構図に特別な感情を持つこともなく、意義を唱えたいと思ったことすらなかった。

 むしろ、その社会構図を至極しっとりとした気持ちで受け入れていたのだ。

 そもそも、女性と男性は根本的な感性が違う。
 何かを作り出す時、その女性らしい観点や感性を活かしながら、仕事をこなしていくことも可能だ。そしてそれは、ある種、女性クリエーターとして非常に重要な武器になる事も彼女は理解していた。

 何も男性と似たような、仕事をする必要はない。

 女性には女性の、彼女には彼女にしかできない個性豊かな仕事をこなしていけば良いのだ。

 伝統的な社会構図、彼女にとって、問題はそこにあるわけではなかった。

 彼女の問題の根幹は、既に、1プランナーになる情熱が彼女の中から消え去ってしまったところにあった。

 有名なプランナーになることよりも、どんな問題にも対応できるサラリーマンの道を彼女は自ら選んだのだ。

 プランナーとして、名前が出ることは必ずしもいいことばかりではない。
 名前が出る人には、それなりの苦労と厳しさがある。
 そんな現実を目の当たりにして、自分がそれに耐えうる人格だという自信が彼女にはなかった。

 そして今の彼女は、自分の名前が表に出ないという、責任逃れ的な安心感の心地良さに甘えてもいたのだ。

 社内では、それなりの地位も彼女にはあった。
 自分の仕事に満足していないわけでもない。
 しかし、何かが足りないと感じることも多かった。
 ただ、それが何なのか、自分が何をしたくて、どう生きていきたいのかを突き詰める勇気も気力も、彼女には既になくなっていた。

「継続は力成り」

 最近の彼女が、自分を慰めるために使っている言葉だ。
 その言葉の裏には、自分を満足させる何かが確かに存在した。
 しかし、それと同時に自分が失った何かも表裏一体で存在しているように思えた。


 慎治に「小さな心遣い」と言われて、少し心が痛んだ。
 今まで、特に最近作ったものの中にそれが反映されているものがあったかどうかさえ、彼女にはわからなかった。
 毎日ただ仕事をこなしているだけで、そこに何の感情も持たなくなっていた。そして、それで良いのだ言い聞かせているどこかに自分もいた。
 だから、彼のことも、桜のことも、見ることができなかったのかもしれない。

 彼女は現実から逃れるように、向こう岸の世界に目をやった。
 その光は、輝きをいっそう増して、彼女の眼に飛び込んできた。


「………この照明考えた人は、センス、いいね…。」

 当たり障りなく、見ず知らずの人を誉めることで、自分の感情も遠くへ追い遣った。


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