やわらかい光の中で-12
慎治の出身は茨城の内陸よりらしく、高校生の頃はサーフィンよりスノーボード派だったそうだ。
両親がスキーをやっていたこともあり、3歳にはスキーを始め、高校生でスノーボードに転換したらしい。
当時ゲレンデには殆どスノーボーダーがおらず、高校生の冬休みにリゾートバイトでスキー場に篭った時も、周りはみんなスキーヤーだったそうだ。
唯一スノーボードをやっていた大学生がいて、その人にお酒の飲み方など色々な事を教えてもらったと言っていた。
「サーフィンはさぁ、あんまり興味なかったんだけど、大学のサークルの先輩がみんなやってたんだよ。だから半ば強制的に始めさせられたの。っつっても、板とか古いのをみんなくれるからいいんだけど………。
だって夏の合宿で泊まるところは、ポイントの目の前だけどサッカーのグランドまで10キロ近くあるとこなんだぜ。
毎朝、日の出とともに起きてぇ、朝一海入ってぇ、飯食ってぇ、朝寝してぇ、それからグランドまで走ってくと、宿のおばちゃんが弁当を作って持ってきてくれててぇ、そこで昼飯。
昼飯の後、軽く休んだら、2時間くらいサッカーして、また走って帰るの。
そんで、その後、夕方にまた海入るからね。
今思うとよくやってたよ。」
「えっ?すごい体力だね。だって、夜は飲んだりもするでしょ?」
「するする。男しかいないから、ホントに体育会のノリだよ。よく倒れるやついなかったなぁと思って…。
中にはサーフィンやってないやつもいたけど、ほとんどやってるから、サーフィン合宿なんだか、サッカー合宿なんだかわからない感じなんだよね。
ホントに、若いって凄いよね。」
彼女は頷きながら笑った。
◇
東京が程近くなると、慎治はいつもと違う道を走った。
「どこかいい桜スポットがあるの?」
車の数が増え、断続的に渋滞し始めた。
会話が途切れたので、裕美は煙草に火をつける慎治を眺めながら、先ほどの質問を繰り返した。
「うん。大学のそばにいつも行ってるポイントがあるんだ。厚木の方なんだけど。誰もいなくてさ、知る人ぞ知る的な場所なんだよね。」
前方の車を見ながら、慎治が答えた。
やはり、慎治がいつもと違うような気がしたが、何がどういつもと違うのか、自分でもはっきりとわからなかったので、彼女はあえて気に留めないことにした。
慎治はそれとなく時計を見ながら続けた。
「今年は行ってないから行きたいなと思ってさ。」
「…へぇ…」
いつも行っていたと聞いて「今までは彼女と行っていたの?」という言葉がのど下まででかかったが、飲み込んだ。
別に深い意味はなかったが、「彼女」の存在を意識するような関係だと思いたくなかった。
いや、それ以上にそういう関係を自分が意識していると慎治に思われたくなかったのだ。
時計の針は3時を少し越えたところを示していた。
裕美はフロントガラスの外を眺めながら、日が伸びたことを感じていた。
暗くなるまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。
今日はなんとなく、日が落ちてから家に帰りたいと思っていた。そうすれば、今日の1日をずっと慎治と過ごした気持ちになれると、なんとなく考えていたのだ。