七夕!-2
「お願い事の短冊に書いたのかってんだよ?」
この男はそんなにメルヘンチックな事を言う奴だったか?と思ったが特に考えずに答える。
「この歳になって、何を書くって言うんだよ」
そんなのは、ガキの遊びだよと冷たいリアクションをとる。
「そりゃあ『奈津美ちゃんとお付き合いできますように』って」
クッククっと笑いを含んだ声でいう。
つまり、また遊ばれているらしい。驚かされた反撃かもしれない…。
悪夢紛いの妄想の次は悪友となるとさすがに辛くなる。
「…性格の悪い奴」
そう、言って再び机に突っ伏せるしかなかった。
淀川が自分のことを本当は心から応援している奴である事を河東は知らない。
「代わりに何か楽しいアイデアはないか??イケメンどもは他校の女子達とプールだとよ」
よく本気でもない相手とアレだけ好き好んで遊べるよな、と彼が嘆息していたのは少し前のことだ。
「…七夕まつりでも行ってろ。独りで」
「男独りでかよ?それはそれでヤダね?」
「「でも、お前と2人だけでもっとヤダ」」
長い付き合いの成せる技なのか、見事にハモってしまった。
「「わっははは」」
それが可笑しくて笑いがこみ上げる、しかし、すぐに「「はぁ?」」っと深いため息が出る。
「賑やかにこしたことは無いよな」
そう呟いて、ポケットに入れてある携帯電話を握り締めていた。
「何人か呼んでみるか?」
それから4日後の日曜日
日本に数多くある七夕祭りでも、特に大きい方だろう。
いくつもの出店や笹の葉を模した飾りが、大通りを賑やかにする。
淀川が呼んだよく知った奴が2人は先に
「ヤッホー。待ったせちゃた?」
ピンクの浴衣姿にその変で配っている団扇という、日本のお祭りですといった出で立ちで少女が現れた。
「よう、久しぶり」
少女は、河東にとっては待ちに待った人物だった。
その中島が手を引っ張って、ひとりの少女を前に出す。
「高校でできた友達の葵ちゃん」
出てきたのは中島よりも頭1つ分小さい少女だ。
中学一年生っと言っても通ってしまいそうな程に、どことなくそういう可愛さの方が前面に出ている。
「はじめまして。高浜 葵です」
1番最初に絡んだのは、意外にも淀川だった。
「あれ?確か…携帯番号を交換した時にいた?」「あ!あの時のナンパ男君」
「ナンパ男君って…よりにもよって中島相手にはしないよ。そんな悪趣味じゃないから」
友人の好きな奴を相手にナンパをするのは良い趣味じゃない程度の軽い気持ちだったが…
「悪趣味って、それどういう意味?」
勘違いされたようで、中島は笑顔のままで問いかける。
その言葉の意味を理解できるけど、本当のことを言えない河東が「まぁ、コイツの口の悪さは…」と間に入ろうと進む。
「なっちゃん…ちょっとコワい」と葵は呟き、一歩さがる。
そんな2人がちょうどぶつかってしまった。
「きゃ!?」
「っと。ごめん」
体勢が崩れて倒れかけた葵を河東がとっさに掴まえる。
「あ!?勝明の奴がもう高浜ちゃんに手を出してるぞ」格好の逃げ場を見つけ出した淀川が、逃げ場に指をさす。
「おお。珍しい!」本気で驚く奴。
「あらあら、私には手を出した事も無いのに」青春ねぇと達観した女子、と反応は三者三様だ。
同じなのは「ちっ違う事故だ事故!(以下略)」という河東の本気の弁明が痛々しさが、笑いを呼んだことだ。
お陰で災難を逃れた淀川が、そろそろ出店を回ろうと提案するまで1分とかからなかった。
六人で回る祭りは楽しかった。
それでも、人通りの多い場所で気を離すとバラバラになってしまっていた。