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欲望の代償
【ミステリー その他小説】

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欲望の代償-1

 その疑惑が発覚してから、もう2週間も過ぎていた。民生党の鷲山代表は、政治資金収支報告書における巨額の虚偽記載を認める釈明会見を行った。その場で”主犯指名”されたのは、会計担当者の公設秘書。俺は報道陣の一員として、その摩訶不思議な会見を聞いていた。
「事実でない記載が見つかった。4年で2100万円超の金が埋め合わせに使われていた。秘書を信頼したことがかえってマイナスとなり、責任を感じている」
 いわゆる故人献金報道について、永田町の衆院第1議員会館内で行われた記者会見は6月30日。報道は6月16日である。この会見により、疑惑は事実となった。それは明らかな虚偽記載であり、約90人、193件、総額2177万円にも達する規模である。
 いったいなぜ、こんな明白な虚偽記載が複数年にわたって続いていたのか? 鷲山氏は会計実務を担当する公設秘書の責任を強調し、動機をこう語る。
「たぶん、個人献金があまりにも少ないので、私にわかったら大変だという思いがあったのではないか」
 説明になっていない。あくまでも鷲山氏の推測にすぎない。調査を依頼された担当弁護士に対して、その秘書は次のように説明したという。
「本来は直接これらの方々に寄付をお願いすべきなのに、それを怠ったために虚偽の記載をした」
 問題の発端は個人献金者の中に物故者が混じっていたことだ。怠っていたでは済まされず、謎は謎のままである。そして鷲山代表は、秘書にすべての責任をなすりつけて幕引きを図る構えなのだ。
 政治資金収支報告書の虚偽記載は、故意または重過失ともに政治資金規正法違反による処罰対象になる。鷲山氏はこれらの違法行為を公設秘書の独断によるものと断言するものの、その理由については他人事のように推測しているだけなのである。
 虚偽記載は鷲山代表の資金管理団体「友愛懇話会」の収支報告書にあった。だが、その資金管理団体の会計責任者については「しかるべき処分をする」とは言うものの、虚偽記載については無関係だったとしている。事実は鷲山氏だけでなく、この会計責任者にも打ち明けられていない!?
 釈明会見では、会計責任者までもが経理の実務担当の公設秘書に騙されていた、というストーリーになっている。会計責任者以外の人物が、数年にわたって収支報告書の記載を仕切っていた??
 俺はこの支離滅裂な説明を唖然としながら聞いていた。政治資金規正法上、最終的な責任は文字通り「会計責任者」が負う。この懇話会の会計責任者は芳田氏であった。
 政治資金規正法では、会計責任者の監督責任について、政治団体の代表者にも罰則規定を設けている。5年間の公民権停止という重罪だ。つまり会計責任者までもが”被害者”となれば、鷲山氏は都合のいいことに自己の監督責任を免れることができるのだ。
 この懇話会の会計責任者は、鷲山代表の政策担当秘書であるばかりでなく、民生党秘書会の元会長である。元秘書会会長が罪に問われる事態になれば、民生党への打撃も大きい。政治資金収支報告書の会計責任者ではなくウラの経理担当が一切の罪を背負うという奇々怪々なストーリーなのだが、テレビの生中継はない。参院第1党の代表が虚偽記載を認める注目の記者会見であるにもかかわらず。

「福本、お前、このネタ追ってくれ。しかし、テレビは相変わらず役立たずだな」
「新聞も社説で取り上げたのはサンキョウだけですよ。麻日のスクープを後追いしたのもウチだけだし」
「ああ、新たに寄付否定13人ってやつな」
「物故者ももう1人増えましたよ。それから編集長、知ってます? 鷲山代表のホームページにある懇話会の会計責任者の項目が、いつの間にか削除されてます」
 松田編集長はY紙に記載されているその後追い記事を読み始めた。


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