胡桃の殻を割るように-3
(かみなりだ…、近いのかな……)
すぐ近くで鳴り響く雷は、体の芯に響くほどで……そばに雷が落ちるんじゃないかと思ってしまえば、堪らず怖さに足が止まった。
びしゃびしゃに濡れた体でしゃがみこむしかなかった。
寒いのに暑い。
震えるくらい寒い。
なのに暑い。
それでも汗がでない。
(もう、だめだよぉ……)
そんなときだった。
「アズ…っ!あんず…っ!平気か?!」
駆け寄ってくる翔が、天使にみえた。
そんな風に思ってしまうくらい……私はホッとして、堪えていた涙がわんわん流れて止まらなかった。
「しょ、…しょ、う!こわ、こわ…かった…っ!ごめ、ごめん、なさ…っ、ふぇっ、え????んっっ!!」
わんわん泣く私を抱き締めて、背に回した翔の手が優しく背を撫でるたび、嗚咽が溢れて仕方なかった。
「心配した…。よかった、無事で。ほら、だいじょうぶだから、もうだいじょうぶだから……」
そう優しく繰り返される声にすがって、翔の腕のなかでわんわん泣き続けた。
「大丈夫だから」
そう笑う翔に、ふにゃふにゃに出来損なった顔で笑い返しながら泣いた。
あのとき……泣くな、って言われていたら、私は翔を好きにならなかったかもしれない。
あのとき……ただ私を安心させようとびしょ濡れの顔で笑いながら、大丈夫だからっていう翔に、私は恋をしてしまったんだから。
でも私の恋心には悪いけど、私は見ないフリをするしかなかった。
翔はずっと、手の届かない人だから。
翔の隣にどれだけ可愛い子が並んでも、私は仕方ないなって、しょうがないんだって、これが当たり前なんだ………そう諦めてきたんだから。
大丈夫。
いつかこの恋も砕けて、新しい恋の実がつく。
だから、…だから、大丈夫だから。
いつか諦められる。
私はその、諦められる日を待っている。
ずっと…ずっと…待ち続けている。
翔に渡るたくさんのラヴコールの橋渡しをしながら。
キューピッドになりきれない邪な私でごめんね…、ごめんなさい。