彼氏(仮)──約束-3
「で? 負けたらどーすんだ?」
「その時は……煮るなり焼くなり好きにしなさいよっ」
アイツの顔が不愉快で頭に血が上ったせいか、どうやら私は、とんでもないことを言ってしまったらしい。
そのことに
「今の言葉、忘れんなよ」
と念を押されて初めて気付いた。
「……ま、何はともあれ俺たちは付き合うことになったんだ。
ヨロシク、奈々」
……え?
コイツが私の名前を呼んだ途端、目の前の風景が一変した。
赤々とした太陽が、遠くの山の頭にかかっている。
黄昏の街が眼下に広がった代わりに、アイツの姿が見えなくなった。
……ううん。
正確には、接近しすぎて視界に入らなくなっていた。
アイツの腕に抱き留められていると理解するまでに、少し時間を必要とした。
だって……
それは私にとって、あまりにも非現実な事だったから……
「ばっ、バッカじゃないの!?」
私の平手がアイツの頬を張り、冷たくて重い音が空気を震わせていた。
そして、いたたまれなくなった私はスカートを翻していた。