『群青の街・第一話殺し屋ハルと少女リリア』-3
「だって家にはハルが持ってるそのライターしか火がないじゃない。火がなきゃキャンドルも使えないもの。」
男より頭2つ分くらい背が小さい少女は、その整っていながらも可愛らしい顔を少し歪めながら、男の持っているライターに人差し指をつきつけた。
男はそんな少女を見て、またため息をこぼした。
「だからお前は留守番してればいいんだよ。仕事にはついてくるなって言ってあるだろ?」
「だって今日は確認作業なんでしょ?だったら危なくないじゃん。」
「危なくない、なんて保証はどこにもねえだろ。この街にいるヤツはロクでもないことしか考えてねえやつらばかりなんだ。」
「それはハルだって同じじゃない。」
少女はケロリとした顔で、そんな言葉を口にした。まぁ確かに男の生業を考えれば、あながち間違ってはいない。
男はあっさりと突きつけられた事実に、ヒクと口唇をひきつらせた。
「あのなぁ…」
「あたしはハルがいれば平気だもん、だから一緒に連れてって!大丈夫、『本番』の時は絶対邪魔しないから!」
ハルがいれば平気だもん、って…。
「オレは気が気じゃねえんだっての…。」
ハルはまた大きなため息をついた。
リリアはハルにとって、同居人であり、また命より大切な存在でもある。一人ならば、自分のことだけを気にかけていればいいし、自分の身体なら死なない程度なら傷つけられても何てことない。
しかし、リリアのこととなると、そうはいかない。
リリアだけは、傷つけさせるわけにはいかない。
リリアだけは、何に代えても守らねばならない。
だけど、このリリア。
生まれながら持ち合わせたものなのか、好奇心旺盛で、しかも生意気。加えてこの街には似合わない、明るい性格。そして誰が見ても認める完璧な容姿を持っている。
仕事以外で二人でいる分には、構わない。
けれど、誰にも気付かれないように、速やかに済ませなければならないこの仕事において、リリアの目立つ容姿ははっきり言って邪魔なのだ。
ハルは、今日何度目かわからないため息をついた。
邪魔は邪魔だが、邪険にするわけにもいかない。
なんだかんだ言って、リリアが可愛くて仕方ないのだ。あからさまに嫌な顔など出来るはずもないし、する気もなかった。
それに、もう外まで出てきてしまい、ついてくる気満々のリリアを、今からなだめすかして家に戻すことの方が、きっと難しいだろう。時間のロスにもなる。
全く……、しょーもないな、オレも。