『群青の街・第一話殺し屋ハルと少女リリア』-2
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
いつでも薄暗いこの街が、さらに暗くなって、ついには闇が降ってきたら、この街は『夜』を迎える。
そしてその男は、行動を開始する。
廃れ、さびれたこの街には、もはやほとんど人などいない。
いや、世間一般にいう、ロクでもない人間なら、いくらでもいる。
そう、死んでも誰も悲しまないような、そんな、孤独で凶暴なヤツなら。
その男は、そんなヤツを始末する仕事を生業としていた。いつからか、なんてことを覚えていない。けれど、物心ついた時にはもう、人間の『始末の仕方』を知っていた。
本当に闇の降るこの街では、『夜』になると、僅かな月明かりといくつかの街灯だけが頼りだ。それさえもない時には、いつでも持ち歩いているライターを使う。
男はライターをつけて、その灯りで今回のターゲットが記載された紙をもう一度見た。
『シン・タバタ 29歳
ミナト2町3番角301』
ターゲット指令の紙には、いつも名前と年齢、ターゲットが住み着いている場所しか書かれていない。『本番』をする前に、顔やターゲットの生業の確認作業は、全部男自身でしなければならない。
今日は、その確認作業が仕事だった。
男は紙を愛用しているカーゴパンツのポケットに無造作に突っ込んで、歩き始めた。
「待ってー!」
しかし歩き始めて数秒もしないうちに、男の背後から、可愛らしい声が聞こえた。男はその声に即座に足を止め、振り返る。
「ハル、待って!」
その少女は走りながらもう一度そう言った。
男は小さくため息をこぼしながら、ライターを取り出し、灯りをつけた。
「リリア、灯りも持たずに外に出るなっていつも言ってんだろ。」
「あ、ハル!」
灯りのおかげで男の顔が確認できた少女は、嬉しそうな顔で駆け寄る。