あたしのくまさん-5
『…ごめんね。あたし帰る。』
『ちょっ…まてって。』
くまさんの制止も聞かないであたしは階段を降りていった。
『あれ??もう帰るの??』
『はい。おじゃましました。』
と頭を下げた。
『和明に送っていかせるよ。』
『結構です。』
ピシャリといった。顔なんてみたくない…。
『夏奈さんまってよ…!!』
階段からくまさんが降りてきた。
『じゃあおじゃましました…。』
ばたばたとあたしは靴を履いて玄関をでた。
あたしは走った。どこまではしったのだろうか。
『はぁはぁ…。』
走るのを止めてあたしは歩きだした。
河川敷で仲良さげに手を繋いで歩く男女がいた。
『あんな感じになりたかったなぁ…』
その場に座って嘆く。もう無理だろうが。
と、そのとき。
後ろからギュッと抱きしめられた。
『…はぁ。何でにげんだよ。』
チャリを爆走してきたようで汗をうっすらかいている。
『…離して。』
でもあたしはくまさんのその優しさがいやだ…。
好きじゃないならその気にさせないで…。
『やだ。はなさねぇ。』
更に力を込めてあたしを抱きしめる。
『何で離してくれないのよ…。』
もうあたしは泣きそうだった。半端な優しさが一番きらい。
『…なんでだよ。やっと夏奈さんと喋れるようになったのに…』
おかしい…もしかして。
『くまさん…ないてるの??』
あたしはくまさんのほうをみた。
『みるな…。』
泣いていた。くまさんが泣いていた。
『なんで…なんでさきになくのよぉ…!!』
あたしもボロボロ泣いてしまった。
くまさんはあたしを真っ正面から抱きしめて耳元でささやいた。
『…夏奈さんが…いや、夏奈が…好き。好きだよ。』
優しく呪文のように繰り返す甘い言葉。
『…あたしもっ…くまさんが…好きぃ…。』
ボロボロになりながら喋るあたし。
くまさんはそれからあたしに甘い甘いキスをした。
『…もう離してやんねぇから。』
次の日、学校に行くときに『夏奈♪』とくまさんが迎えにきてくれた。
『あ、あたしも…その…か、和明って…。』
『もっかい。』
『和明…。』
『か〜わい〜♪』
といってあたしの頭を撫でた。
『でも夏奈は兄貴が好きなのかと思ってた。』
あたしはむせてしまった。
『んなわけないじゃん!!』
『だって兄貴の笑顔がいいって…。』
『それはね…和明が笑った顔みたく柔らかい笑顔だなぁって…。』
つけくわえて、あたしは言った。
『あたし、結構和明にぞっこんだから。』
和明は顔真っ赤で、
『…かわいいやつだ。』
といってあたしの髪を触った。
終わり。