憂と聖と過去と未来 5-13
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それからしばらくは、できるだけ憂のことを気にかけないように過ごした。
佐山は何もしなければ、普段は普通の女子高生だったりする。
最初は何が佐山をそうさせるのか気になっていたが、今ではそんなことどうでもよかった。
ただ俺は、拷問に耐えるだけだ…
しかし、季節が秋になると話は変わる。
看護学校を含む専門学校受験者は今が勝負どころだからだ。
佐山は栄養士などの資格が取れる学校を受けるらしく、受験勉強を始めていた。
理由は知らないが、憂と一緒でなくて本当によかったと思う。
ある意味ニアミスで、最初に訊いたときは焦るしかなかった。
しばらくはゆっくりできるかと思ったが、やはりそうとはいかないらしい。
佐山は警戒してか、俺を常にそばに置いた。
これは難儀だ。
ただ俺は、憂に一言だけ伝えたかった。
頑張れ、と。
だがそうそう物事がうまくいくわけではない。
真っ先に電話で伝えることを考えた。
直接伝えることは危険過ぎる。
俺もそうだが、次はおそらく確実に憂に危険が及ぶ。
ましてや受験の時期はまずい。
だが、携帯は取り上げられている。
さすがに憂の携帯の番号なんて覚えてないし、メモもない。
自宅の電話は憂の携帯を登録してないし、母親は今時めずらしい非携帯所持者。
唯一の救いである親父は、現在海外に出張中でしばらくこちらから連絡はできない。
あまりの運の悪さに力が抜けた。
結局、頑張れの一言も言えずに時間が過ぎていった。