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缶コーヒー
【青春 恋愛小説】

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缶コーヒー-4



 私はその晩いろいろ自分なりに考えた。拓ちゃんの言ってたみたいに、少し成長してみようかなって思った。成長したらまた拓ちゃんが一緒に遊んでくれるから。早く成長すれば、早く拓ちゃんに会える。そんな理由で大学に行ったら拓ちゃんはまた怒るだろうか。まぁどんな理由にせよ学校に行ったって事実は同じ。教授もどんな気持ちで授業かなんてわからないだろう。だいたい学校に行けないことをなんで拓ちゃんに怒られるんだろう。昼の出来事をひっぱってきて怒ってみた。でもよくよく考えると拓ちゃんは正論を言っている。でも、私は具体的にどう成長したらいいのかがわからなかった。いったい何をもって成長したといえるのかなぁ。とりあえずやっぱり学校へ行ってみようと思う。

 次の日の朝、重い気持ちで学校へ行く準備をした。今日は三限から。二日連続で学校へ行こうとしている自分に少し驚いている。一日行ったら一日休むくらいのペースでしか最近は行ってなかったから。それすら嫌になって二週間も休んでいたのに。休んだ後に学校へ行くのって嫌いだ。でも休めば休むほど、どんどん行きたくなくなる。だから今日は行ってみよう。拓ちゃんの言ってたみたいに学校の銀杏並木が紅葉してて綺麗かもしれないし。ちょっと重い気持ちを抱えて電車に乗り込んだ。地下鉄は真っ暗で気分も重くなるから嫌い・・・。でも家から学校へ行くのには地下鉄しかない。意外と空いていて座ることが出来た。情けないけど立っていることも面倒くさくって座れたことが嬉しかった。
暗闇の中ボンヤリ考える。向こうの窓にブサイクナな自分が映ってる。

 いったいなんで私は学校へ行けないんだろうか。高校とかは楽しかったのに何故か大学に入ってから急に学校へ行くのが面倒になった。
『スチューデント・アパシー』
高校一年生の頃、現代社会で習った。大学に入学することがなによりもの目的で、そして受験して大学に入学したらそこで目標が達成されて無気力になってしまう状態のことをいうらしい。
あの頃の私はそんな風にはならないと思っていたのに。大学に入っても好きな勉強を一生懸命やるつもりだったのに。おかしい。なんでなんだ。
いつもちっとも私のほうを向いてくれない母に注目してもらいたかった。あの人は地位とか名誉とかブランドが大好きな人だから私が一流大学に入学したら喜んでくれると思った。それなのに、それなのに。私の思った通りにはならなかった。大学生になった途端に私の前からいなくなった。必死で勉強をしたのに。誰よりもいい子で居たかった。誰からでも愛されるようないい子に。けれど誰からも愛されるはずの私には友達すら居ない。ダメだ。そんなことを何度も考えてみたって何も変わらない。
それになにも、私は母親の為だけに受験を頑張ったわけじゃない。自分の為に、もっと勉強したいから入ったはずだったのに。
やりたいことも夢も大学で見つけるってあんなに固く決心したじゃないか。
「初心忘れるべからず」
景気づけに呟いてみた。
合格した時はあんなにも自分で自分が誇らしくって嬉しくってたまらなかったんだ。もっと思い出して
―― 頑張れよ自分!――

 一人で自分と格闘しながら地下鉄に揺られた。すぐにキャンパスのある駅に着いた。少し遅刻しそうだったので速歩きで大学へと向かう。T大通りと名づけられた道には、T大の学生で賑わっていた。人が多すぎて速く行きたいのになかなか進めない。イライラする。やっとのことで教室に着くと、黒板に本日休講と書かれてあった。
「嘘でしょ。」
小さな声で呟いた。人がやっとの思いで大学まで出てきたのに・・・。
後ろの方で、
「やったー!休講だぁ。」
――いったいどの辺が「やったー!」なんだろう。――
騒いでる女の子たちを横目で見ながら私は教室を後にした。

―― あぁ、なんかうまくいかない。――
悲しみと、少しの怒りとを抱いたまま私は自販機でジンジャーエールを買ってベンチに座った。ボンヤリと人間観察をする。今日は一つしか授業がなかったから帰っても良かったんだけどそれすら面倒くさくてただボンヤリしていた。


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