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缶コーヒー
【青春 恋愛小説】

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缶コーヒー-2

―― 桃子ちゃんの受験?私のときは何一つしてくれなかったくせに。
家族が出来る?私はママの家族じゃなかったんですか?
母親が必要?私にも母親が必要なんですけど・・・。――

何もかも勝手に決めて私の意見なんて一つも聞こうともしなかった。
文句は次々浮かんできたけど、もう何を言っても母は思ったようにしかしないだろうとわかってたからほっておいた。そしたら本当に四月になったら家を出て行った。あきれてものも言えなかった。

 あれからもう半年。私も少しは大学生らしくなった。化粧だってする。それに私は一応きちんと一人暮らししている。でも大学は最近行ってない。前期はそれなりに行ったんだけど、後期になってからは全く行く気がなくなってしまってそれで拓ちゃんの部屋に入り浸ってるわけだ。
――もう十月か。あと二ヶ月で今年も終わる。時がたつのって速い――
私と拓ちゃんとは同じ私立高校に通っていたのだけれど、拓ちゃんは高三のはじめに不登校になって中退してしまった。私は卒業し現役でT大学に受かった。

「とにかくさぁ、お前明日は大学行けよ。」
まだ拓ちゃんのお説教が続いていた。
「ねぇ、拓ちゃん。拓ちゃんが高校来なくなった時、私一度だって学校行けって言った事なかったよ。」
「わかってるよ。知ってるよ。でもな、友達なら一度くらいは言ってほしかったな。」
「なにそれ。」
「あぁ、もうとにかく俺バイトの時間だから行くよ。明日は来るなよ。」
拓ちゃんは、そう言うと部屋から出て行ってしまった。

「みんな、自分勝手だよ。」
私はリンゴの芯をゴミ箱に放り投げた。ふちに当たって上手く入らなかった。
何もかも上手くいかなくって腹が立った。膝を抱えて体育座りをしたまんまで一人泣いた。




 次の日、私は二週間ぶりに大学へ行った。英語の授業。久しぶりなうえに早く着きすぎてしまった。友達はほとんどいない授業だ。それなのに少人数だからお互い顔だけは知っている人ばかり。顔は知っているのに仲良くない人ばかり。それが私が大学に行きたくない理由の一つだ。私はなんとなく友達を作り損ねてしまった。心のうちを話せる人はこの大学にはいない。うわべだけの仲のよさというものを私は嫌う。ただのワガママなのかもしれない。いろんなことを友達に求めすぎているのかもしれない。協調性がないのだろうか。
重い気持ちで教室のドアを開けた。知らない男の子がいた。アーモンド形の目に少し厚い唇。整った顔立ち。白くはないけど恐ろしいほどに美しい肌。男の子とは思えないような細い体。一瞬のうちに特徴をとらえられてしまうほど彼は美しかった。男の子に美しいという表現を使っていいのかはわからないけど。美しいとしか言いようがなかった。
教室を間違えた。あんな人うちのクラスにはいない。そう思って一旦教室から出た。教室番号を確かめる。・・・やっぱここだ。もう一度入る。彼のほうが間違えてるんだ。私は彼に間違えてますよ、と教えようかどうか一瞬悩んだ。彼はそんな私の困惑した表情をちらりとみると、席に置いてあったカバンから明らかに女物の財布をひょいと抜き出しこちらをみてニカリと笑ってひらりと教室から出て行った。

「えっ!?今のは何?」
一瞬の出来事に私は混乱した。私は驚いた。何が起こったのか、うまくのみこめなかった。

――あの人の財布じゃなかったよね・・・。男だったし。えっ?もしかして女。女と言われれば女の子のようでもあったけどでも、やっぱり男だよね。あっ彼女の財布とか?――


彼が泥棒だと気づいたのはトイレから帰ってきた同じクラスの若林さんが戻ってきてしばらくしてからだった。

「あれぇ、財布がないー。おかしいよ。だってさっきコンビニでルーズリーフ買ったから絶対家に忘れてきてないもん。」
若林さんが澤田さんに言う。
「マジで!?ちゃんと探したの??」
「ないよ。パクられたのかなぁ??超ショック。あの財布気に入ってたのにぃ。」
「最悪じゃん。後で学生課、行くっきゃないね。」
「ねぇー、川原さん、怪しい人とかいなかった??」
半泣きの若林さんが言う。
私はドキリとしながら答えた。
「ごめん。よくわかんない。」
「そっか。ありがとね。あぁ、ショックだよぉ。」
と若林さんは言ってそれっきり私に話は振られなかった。私は若林さんが私の名前を覚えているんだって変なところで嬉しくなった。
若林さんと澤田さんが学生課へ行くのを私はボンヤリ見ていた。

なんであの時私は泥棒を目撃したって言わなかったのかが未だにわからない。ただなんとなくだ。なんとなく・・・。


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