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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつて「茅野ちゃん」かく語りき-8

「んで、最後にコレ」
由良がラズベリーソースをまわしかけた。
「うわぁ!おいしそう!!」
由良が作ってくれたってのが嬉しい。それを急いで持ってきてくれたってのも嬉しい。何もかも、嬉しい!
「よかった。喜んでくれて」
「ありがとうございます。おいしー!」
コーヒーとの相性も抜群で、あたしは一気に食べてしまった。今日はシュークリームも食べたのになあ、と反省したのは5秒だけ。うけけ。
「最近さ。茅野ちゃんの元気がなかったから」
ぽつりと彼が話し出す。
「……」
口の中に、コーヒーの苦みが広がった。
「心配した」
うつむいたままに話す由良に、たまらなくなる。
「ごめんなさい」
「いや、そういう意味じゃなくてさ。ただ、俺が……!?」
自分でもビックリした。あたしは、由良にキスをしていた。覚えているのは、彼の瞳の奥にあった驚き。
ゆっくりクチビルを離してから、あたしは由良と正面から向き合った。
「聞いてほしいことが、あるんです」



由良は、あたしの長い長い話を眉間にしわを寄せたり、目を赤くしたり、あたしを抱き締めたり、頭を撫でたりして全部きちんと聞いてくれた。
自分でも、時々何を言っているのかわからなくなってしまっていたけれど、由良が聞いてくれただけで、あたしは満足だった。
これで、もし嫌われてしまっても。
「茅野ちゃん。ちょっと、おいで」
由良は手招きして、あたしを抱き寄せた。そんなことされると、泣きそうになってしまうんじゃけど。
「ん。俺、茅野ちゃんのことすっげ好き」
聞いた途端、身体からふにゃふにゃ力が抜けた。
あたし、結構緊張しよったんやなぁ。
ついでに涙も出そうだったけど、それだけはこらえた。
だって、泣いたらもったいないけぇ。
「あたしも、好き」
ちゃんと言えた。由良はあたしのほっぺを大きな手のひらでそっと包んだ。
「話してくれてありがとう。安心した」
「安心?」
「最近の思案顔の原因がわかったから」
「へへ……」
「ところでさ」
「ん?」
「俺からもしていい?キス」
あたしは返事の代わりに目を閉じた。
由良の唇は、やわらかくて、ちょっとひゃっこかった。
あたしたちは長い間そうしていたが、由良がのろのろと唇を放した。
「うーん」
本懐を遂げたはずの彼は、なぜか浮かない顔をしている。一方あたしは、久々の感触にフワフワしっぱなし。
そのギャップに思わずふてくされてしまう。
「なん?」
あたしの声に由良は諦めたように、息を吐いた。
「俺さ、前はえらそーなこと言ったけど、すっげ茅野ちゃんとキスしたかったのよ」
「なんで?」
由良はどうしてそんなこと聞くの、と言いたげに目を大きく開いた。でも、少し考えてから、頭を掻いた。
「頭わりぃから、言い方わかんないけど。茅野ちゃんだからかも」
ああ、それならわかる。
あたしも、由良だからキスしたい。
由良だから、……セックスしたいと思うんだろう。
彼となら、男女がするあの行為にも意味が見つけられるかもしれない。
由良となら。
「由良」
コーヒーの香りがする彼の胸に飛び込んだ。背中まで手を回して、ぎゅうと抱き締めた。
「茅野ちゃん」
ふっと部屋の空気が変わる。あたしたちの周りを、甘い綿菓子みたいなものがふんわり包んでいるみたいだ。
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そして、もう一度触れた由良のクチビルは、ほんのりぬくかった。


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