かつて「茅野ちゃん」かく語りき-10
「やっぱ、スッゴくうれしそうに話すモンだから」
あ。
まゆが八の字。
「なンか、やだ」
ぷぷ。
とんがり口。
「……聞いてンのかっ?タキタっ!」
わわっ。百面相を楽しむ時間もおしまいだ。
「もちろん、聞いてますよ」
「なに、ちょーっとニヤケてんだよ」
「え?そうですか?」
慌てて顔を取り繕うと、ジュンはぷくっと頬を膨らませた。
さくらんぼみたいにぷくりとなったほっぺが愛しくて、その実に口付ける。
「……怒ってるンだぞ」
「知ってる」
唇に吸い付いてくる頬に、もっともっと…と湧き起こる気持ちを抑えながら、僕は聞いた。
「藤川さんに、ヤキモチやいてるんですか?」
「べっ、別に。そーゆーワケじゃないぞ。クミコとオトートのことは祝福してるし、取られたなンて思ってない」
ジュンは一気に話してから、カフェオレに浮かんだ氷を一かけ口に含んだ。
僕もつられて湯呑みに口をつけたが、あまりの熱さに断念する。
どーして僕がこんな目に遭わなくちゃならないんだ……。
ジュンはというと口の中で氷を転がしながら、僕が話すのを待っている。
「よし。僕を茅野さんだと思ってくださいね」
「えっ?」
小さく咳払いをしてから、僕は茅野さんの首をかしげる癖を真似する。
「ジュンー。昨日ね、藤川さんがね?」
ジュンはひどく真面目な顔をしてから、唇を変に歪めた。
「いや、タキタ。無理」
僕も今にも噴き出しそうだが、それをこらえて言い放つ。
「想像力ー!!まだまだ修業が足りませんね、村井純子!」
「そんな言ったって……性別が違うじゃナイか」
「いーいーかーら!」
なかば強引であるが致し方ない。ジュンは自分が納得しないと前に進めない性格だからだ。
しかも、あなたは体感しないとダメですもん。
口の中の氷を噛み砕いてから、ジュンはぼそりと答えた。
「クミコ、オトートのこと『由良』って呼ぶんだ」
それは初耳。
しかし、これは続けていいということですね。
僕は足を揃えて座り直してから、首をかしげた。
「昨日ね、由良がおいしいケーキ作ってくれたんよ?」
「おぉ、そりゃよかったなあ」
…………。
沈黙。
あれ?終わり??
「すっごくおいしかったんよ」
ジュンは僕を見ずに「よかったな」とだけつぶやいた。
なんとなくいや?なムードのまま、僕は首を正した。
「えーっと。いつもそんな感じなんですか?」
「……うん」
彼女はずっと目を反らしたままだ。良くない、とは自覚してるんだろう。
ううむ、今回は長丁場になりそうだな。
「きっぱり言いますよ」
僕はわざとらしく咳払いをした。
「さっきのジュンとは、一緒に居ても楽しくありません」
むきだしの肩がびくりと動いた。
少々酷だが、仕方がない。茅野さんとは仲良くしていてほしいもの。
「返事は上の空、目を見て話さない。あなただって、そんな僕と話したくないでしょう」
彼女の大きく見開かれた瞳に、みるみる涙が張っていく。まばたきもしないうちに、一粒ぽろりとこぼれた。
「だって」
喉の奥から声を出している。しんどそうだ。