『六月の或る日に。2』-7
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
「ねえ、ずっと聞きたかったんだ。」
あたしたちは大学を出て、ある場所へと向かっていた。夏樹は「ん?」とあたしの方へ顔を向けた。
「あの舞台の時…、あたしに告白すること、前から決めてたの?」
「あー…、あれか。」
夏樹は気恥ずかしそうに、そっぽを向いた。何だか、自分まで少しくすぐったい気持ちになった。
「あれは…、別に明確に決めてたってわけじゃねえんだけど…。まぁ、告白したい、とは思ってた。」
初めて聞く、あの時の夏樹の気持ち。
「でもまぁ勢い?みたいな感じだったかな。あ、いや、お前を好きっつーのは本気だったぜ?」
わかってるよ、と苦笑しながら答えた。
『本気だった』もう過去形になっている言葉に、また寂しさがあたしを襲った。
「………今だから言うけどさ。」
すると夏樹は、少し慎重な感じでまた何か話し始めた。
「春美、すげーモテてたんだよ。」
「え?」
「俺のダチとかも、お前のこと可愛いとか綺麗だとかうっさくてさ。授業中もお前の事チラチラ見てるヤツいたし。」
「はぁ?」
夏樹の勘違いなんじゃないの?
そう思った。だってあたしはそんな風に感じたこと一度もない。
「これだよ…。」
すると夏樹は呆れ顔でそう呟いた。
「お前ほんっと!そうゆうの自覚ねーのな。」
「そうゆうのってなによ?」
「だーかーら!誰かに好かれてるとかモテてるとかゆう自覚。」
「自覚って…。そんなのわかんなくない?」
「いや、わかるだろ。」
夏樹はスパッと、そう言い切った。
あたしはただ、首を傾げるばかりだった。
「……サークル内にも、お前のこと好きって人もいたし。」
「ええっ!?」
夏樹の話に驚きすぎて、思わず叫んだ。
「う、嘘でしょ…?」
有り得ない。絶対有り得ない。
そうとしか思えない。
「嘘じゃねえよ。俺、実際にそう言われたんだから。」
夏樹はそんなあたしに、不機嫌そうに顔をしかめた。
でも本当だとしたら、一体誰…?
あの頃は、そんなこと思いも寄らなかったし、気づきもしなかった。