『六月の或る日に。2』-6
『好きです。俺だけの側に、いてください。』
会場のお客さんの反応とか、先輩たち後輩たちの反応とか、色んなことが気になったけど、どうでも良かった。
ただ、目の前に跪くこのひとを、あたしのものにしたい、と思った。
夏樹と一緒にいたい。
そう思った。
何だか胸の奥がすごく温かくなって、涙が溢れ出した。それが伝わったのか、不安げに夏樹が顔を上げた。
涙でよくは見えなかったけど、
ーーー愛しい
そう思った。
『……はる』
立ち上がって、春美、と呼びかけた夏樹の優しい声を、不格好な声で遮った。
『なつ、き…。あたしも……あたしも、好きっ…!?』
いきなり、ぎゅうっと、強い力で抱き締められた。それがまた、彼の想いを現してくれているようで、あたしはまた涙が出た。
『春美…っ。すっっげえ大事にするから。』
耳元で囁かれた言葉。
あたしは嬉しさのあまり、泣きながら笑った。
『うん。』
『離してやんねーよ?』
『うん。』
『俺、めっちゃ束縛する。』
『うん。』
『でも俺の全部で、春美のこと大事にする。』
そう言って、彼は離れた。何が来るのか、なんとなくわかった。
夏樹はあたしの涙を指で優しく拭うと、ゆっくりとあたしの唇に、自分のそれを合わせた。
ーーーーあの幸せな気持ちを、
夏樹とあたしの『始まりの日』を、
あたしはきっと一生
忘れない。