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『六月の或る日に。』
【悲恋 恋愛小説】

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『六月の或る日に。2』-4

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「まぁ、そりゃ譲る気にもなるよなー。」

「ほかのみんなの反応も、なんかおかしいなと思ったもんね。」

その時を思い出して、二人で苦笑した。

実はその頃、演劇部内で一番の看板女優と看板俳優と言われていた3年の美香先輩と、4年の高田先輩には、もう某有名事務所からオファーが来ていて、しかもデビュー作も決定済みだったのだ。だから二人とも快く、その『晴れ舞台』を後輩に譲ったというわけだ。

あたしと夏樹はそれを知らなかったために、当時本当に理由がわからなくて、毎回お互いに先輩に気を使ったものだった。

「なんで高田先輩じゃねえんだって、俺あの時すっげー顔色伺ったのにさ。」

夏樹がそう言って、唇を尖らせた。それがなんか可愛くて、思わず吹き出した。

「なんだよ春美もだろ?しかもさ、高田先輩俺にそれ言わねえで、自分が怒ってるふうに見せかけて、何度か俺に飲み代奢らせたんだぜ?」

「え、ほんと!?」

「マジ。あーったく思い出したら腹たってきた。週刊誌に売ってやろうかな。」

腕組みをする夏樹の横顔を見て、声をあげて笑った。
高田先輩は今じゃ舞台や映画に引っ張りだこの有名俳優だ。とてもじゃないけど、夏樹の話は、大学時代のほんの小さなエピソードで終わりそう。

「今更でしょー!」

「……あ、やっぱり?」

気まずそうに顔を歪めた夏樹に、また笑った。


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最後の公演の日。あたしは会場を埋め尽くすお客さんたちを、舞台袖から見ていた。


『これで最後か。』

後ろからふと聞こえた声に、振り向いた。衣装に着替えた夏樹がそこには立っていた。


『なんだかんだ楽しかったよな。』

『……うん。』


たった2日間のうち、6回しかない舞台。最初はできない!なんて思っていたけど、いざ舞台でお客さんの目の前に立つと、何だか楽しかった。

稽古はつらかったけど、あたしにとってはきっと一生の思い出になる。


『……最後だから、最高の舞台にしようぜ。』

いきなり手を握られた。驚いて夏樹を見上げると、彼は優しく笑ってみせた。


ブー…と、舞台を始める合図の音が会場内に響く。


『……それじゃあ、いきますか。』

『…うん。』


夏樹と顔を見合わせて、強く頷いた。


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