『六月の或る日に。2』-10
夏樹は湖をリラックスした表情で眺めている。
どうかそのまま気付かないで。
けれど。
「な、あれさー……、…はるみ……?」
馬鹿。何で気がついちゃうの。
そう思った。
夏樹の表情が、困惑していた。
ああどうしよう、困らせてる。
でも、あたし本当はこうしたかったのかもしれない。
ずっと夏樹の前で、泣きたかったのかもしれない。
…………そして夏樹に。
「……春美、泣くな。……今、泣かれても、俺はどうも出来ない。」
ーーーーーー、そうだよ、突き放して欲しかった。
そうだよ、それでいい。
「……うん、ごめん。でも…、今だけ。」
夏樹は苦虫を噛み潰したような表情のまま、膝の上で手を握り締めて、それ以上何も言わなかった。
でも、夏樹。
あたしにはわかったよ。
いつも、痛いほどの優しさをくれて、ありがとう。
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
『俺、明日からあんま会えない。』
あたしは仕事に余裕が出来始めて、やっと夏樹との時間が取れると思っていた。
嬉しくて、きっと夏樹も喜んでくれるだろう、なんて思って、
『夏樹、今度デート出来る日いつ?久しぶりに旅行とかも行きたいね!』
そんなメールを送った。
夏樹の返事は、三日来なかった。あたしは待った。
もしかしたら休みを確認してるのかも。
仕事が忙しいのかも。
夏樹はきっと、こう言ってくれる。
『まじで!?じゃあ今からどこ行くか考えないとなー。』
そう、言ってくれる。