エンジェル・ダストLast-7
同時刻。クーからの連絡を受けた李は、にこにこと上機嫌だ。
──松嶋さんが立てた計画が、これほど上手くいくとはな。
それは3日前の事だった。
田中が放った見張りが、李邸から消え失せた夜。五島から連絡が入った。
「…恭一から連絡があって…中華街にいるそうです」
李は素早く考えた。
「中華街の何処に居るんです?」
「…〇〇という店の近くだそうです」
「そこで待つように云って下さい。知り合いを向かわせますから」
李の手配により、恭一と宮内は中華街にある料理店に匿われた。
そして、仲介人を通して連絡を交して作戦を伝えたのだ。
──こっちはもうすぐ片づく。後は頼みますよ…。
李は遠くを見つめ、事の行く末を見守っていた。
翌朝。
朝食後、ミッシェル・クーは部屋で荷物を片づけていた。
チェックアウトの時刻が迫っている。
「エクスキューズ・ミー?」
ノックとともにポーターが2人現れた。彼らのひとりが部屋に入ると荷物に手を掛けた。
「そのバッグよ…」
クーの目配せにポーターは頷いた。ブルーの小バッグ。
ファスナーを開くと3基のハードディスクが入っている。
ポーターは、予め持ち込んだ偽のハードディスクと中身を入れ替え、もうひとりのポーターに手渡す。
受け取ったポーターは、本物のハードディスクをバックパックに詰め込み、部屋を飛び出して行った。
──受け渡し完了…後は最後の芝居をこなすだけ。
クーは気持ちを引き締め、エレベーター・ホールへと急いだ。
「ありがとう…」
クーを乗せたタクシーが空港へと走り出す。少し早いと思われたが、交通渋滞極まりないことを考えれば得策だ。
クーは余裕をもった表情で、混みだしたクルマの流れを眺めていた。
すると、
「蘭英美さんですね?」
突然、運転手が話掛けてきた。
クーは身構える。
「そう警戒なさらないで…私は周の部下で徐と申します」
「何故部下が?周さんはどうしたんです」
「彼は現れません。あなたの周りにいるスパイを警戒して」
「…じゃあ、引き渡しは中止ですの?」
「荷物を私に渡して下さい」
徐の言葉にクーは強い疑問を抱いた。その変化に気づいた徐は、──ちょっと待ってて下さい─と云って携帯電話を取り出した。