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エンジェル・ダスト
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エンジェル・ダストLast-6

「周さんも人が悪い。最初からそう仰ってくだされば…」
「申し訳ない。あなたの美しさに、つい、肝心な話を忘れてしまって」

 和やかな雰囲気の中、ランチが運ばれて来た。

「このレストランの料理人は話題でね。中華に外国のテイストを取り入れてるんです」

 周の説明通り、和食のような味付けは、これまでの中華と一線を画して美味に感じた。

 食事を終えてお茶が運ばれて来た。花の香りのお茶が、口の中をさっぱりとさせる。

「それでは蘭さん。例のモノを渡してもらえますか」

 いよいよ本題に入った。クーは緊張を抑えて周に微笑む。

「モノはホテルに預けてあります」

 周は蘭の言葉に顔を曇らせる。

「しかし、あなたはチェックアウトしないのでしょう。
 私が荷物を受け取って行くのを、怪しいと思いませんかね?」
「怪しいって、何がです?」
「李は商売柄、情報機関の者にマークされています。特に中国の動向を懸念するCIAなどがね。
 その右腕であるあなたが、理由も無く香港に来ると連中は考えないでしょう。
 ここでの受け渡しは危険過ぎます」

 クーはおかしくなった。真剣な顔で、持論を展開する周の目前に居るのがCIAだと気づいた時、彼はどんな反応を見せるのだろうと考えたら滑稽に思えた。

「では、こうしましょう」

 クーは少し考えて提言する。

「明日の朝10時に空港に来て下さい。そこで引き渡します。
 周さんはそのまま、クルマで走り去って下さい。危険を感じられたら、警察に飛び込んで下さい」
「分かりました、明日の10時ですね」

 2人はレストランを出ると分かれた。クーはしばらく周を見つめた後、部屋へと戻った。
 クーは、彼女のハンドラーである情報員と携帯で連絡を取った。

「……そう。受け渡しは明日の10時」
「分かった。しばらく追跡して本物と思わせた後、すぐに散開する。
 ところで、ターゲットは信頼してるのか?」
「ええ。私がホテルで引き渡しを提案すると、危険だと云いだしたのは向こうですから」
「そうか。では、十分注意してな」

 電話は切られた。クーは次に李の元に連絡を入れた。

「周氏がよろしくと云っておりました。明日の朝、空港で再び会う予定です」
「そうか。こっちの事は気にしなくて良いから、ゆっくりしてきなさい」

 電話を切ったクーは軽い脱力感に見舞われた。すべてが順調に運び、明日の朝には自由になれる思いからだ。

 ──これでしばらくは休めるわ。

 金で使い捨てられる連絡員と違い、クーは有能だった。
 このような場合、本国で数ヶ月の猶予期間をもうけた後に、新しいミッションが待っている。
 もちろん、整形手術を施し、別人になって。

「さて、夕食までの間、少し休みましょ」

 クーはそう云うとベッドルームに入って行った。


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