エンジェル・ダストLast-16
?エピローグ?
事件の翌日。東都大学では、工学部教授、竹野隼人の自殺体が発見された。
竹野は、教授室ドアノブにネクタイで首を吊った格好で、デスク上のパソコンのディスプレイには、──疲れた─とだけ書かれていた。
県警は直ちに検視及び行政解剖を行い、他殺につながる確証を掴んでいた。
だが、記者発表の直前、──ある筋─から横やりが入り、結局、案件は自殺以外に繋がる物証が無いとして片づけられてしまった。
その2日後、中国の新〇社通信、電子板が驚愕な記事を世界に発信した。
『米日は第2次大戦の蛮行を繰り返すつもりか』
このような見出しで始まった記事は、半ば感情混じりの文章が綴られていた。
──アメリカは、ある意味核以上の兵器を開発中である。
そのプロジェクト名はプロジェクト・エンジェル・ダストと呼び、ナノ・マシーンを兵器とする計画だ。
現在、ナノ・マシーンは医療など平和利用を目的として開発が急ピッチで進んでいる先端技術だ。
ウイルス並みの大きさしかないマシーンにより、手術不可能な箇所の治療を目的としている。
しかし、これは両刃の剣だ。タンパク質を構造体としたナノ・マシーンに増殖と攻撃、感染機能を組み込めば、吸い込んだ人間の体内にあるタンパク質を用いて増殖し、体内のあらゆる器官を破壊し不全にしてしまう。
また、ナノ・マシーンが咳やたん、排泄物に混じれば、それに触れた人間も確実に感染する。
アメリカの最終目的は、特定遺伝子に対する感染だという。
つまり──ある人種─だけを特定して抹殺する兵器だ。
彼らはこの開発のために、日本を抱き込んだ。ペンタゴンから軍産企業であるバイオ・ダイナミック社とバージニア州立工科大学をクッションとして、この分野で最先端である東都大学工学部に多額の資金を送り込んだのだ。
我々は世界中に問いたい。
我が国同様、NPT──核拡散防止条約─加盟国であるアメリカは、表舞台では我々と手を取って核軍縮を掲げている。
だが、その裏では、核以上に非人道的な兵器を開発していたのだ。
その後には、文章を裏付けるデータが貼られていた。
──李さんは約束を守ってくれたな…。
恭一は李に連絡を入れた。
「やあ、松嶋さん」
李の快活な声が返ってきた。
「新華社の記事読みましたよ。けっこう派手にやらかしましたね」
恭一の声に、李は笑っている。
「担当者も困ってましたよ。その日から、寝る間も無いほど世界中の雑誌社から連絡が入ると云って」
「たまには良いでしょう。党の顔色を伺って書く記事より、何倍も手応えがあるんですから」
互いの笑い声が受話器に響く。
「…これで、アメリカは諦めますかね?」
「無理でしょう。今回の件で、アメリカは痛手をこうむりましたが、諦めはしません」
李の強いため息が聞こえた。