エンジェル・ダストLast-15
彼らは激怒した。
直ちにクーの身柄を拘束すると、徹底的に身辺調査を行った。
その時、彼女のバッグから10万ドルの小切手が見つかった。
クーは、涙を流して身の潔白を訴えた。が、そんなことを鵜呑みにするほどCIAはお人良しではない。
彼女は今、ノース・キャロライナ州にある精神病院に入っている。
おそらく、本人の意志は反映されることなく、一生を施設内で終えるだろう。
「では、お元気で」
恭一と李は力強いグリップで握手を交した。
「またお会い出来る日を楽しみにしてますよ。もっとも、中国をターゲットにされるのは困りますがね」
李がいたずらっぽい顔で笑う。
「それは御国次第でしょう。中国共産党がもっと──自由と協調─を推し進めれば、素晴らしい国になると思いますよ」
李は意味深な発言に肩をすくませる。
「胡錦濤──ホウ・ジンタオ─なら大丈夫でしょう。彼は少しはマシのようだ」
互いが声をあげて笑った。
ルノー4が李邸を離れる。恭一も五島も、やり遂げた満足感に浸っていた。
「やっと終わったな…」
「ああ。後、佐倉さんへの報告は宮内に任せよう。オレは吉永の両親に会いに行く」
五島の思いに、恭一が相づちを打つ。
「久しぶりに、いいアクションだった」
「…そうだな。3年前、おまえと初めてやった時以来だな」
その時、恭一は急に思い出したように言葉を付け加えた。
「ああ、そう云えば、宮内から金を預かってたんだ」
恭一は、ジャケットの内ポケットから厚い封筒を取り出し、五島のひざ上に置いた。
「100万入ってる。今回の仕事料だ」
「たったこれだけか!?」
語気を強める五島。が、恭一は笑っている。
「宮内の依頼を受けて20日足らず。日当2万と技術料、それに諸経費を合わせた額だ。
本当は無料にしてやりたいが、クルマを潰したんでそうもいかん」
五島は何も言えなくなった。黙ってポケットに封筒をしまい込む。
「ところで、女はどうするんだ?」
突然、話があらぬ方向へ逸れた。
「どうって…20日も連絡取ってないんだ。今さら…」
「嘘をつけ。見張りが居なくなった翌日からメールしてたじゃないか」
次の瞬間、五島は耳まで赤くなった。
「て、テメェッ!お…オレの携帯見やがったなあァ!」
「まあいいさ。仲直りするならさっさとしとけよ。長びくと、後々面倒だからな」
車内に恭一の笑い声が響いた。その顔は、解放感に包まれて晴れやかだった。