エンジェル・ダストLast-14
「終わったか」
五島の言葉に恭一は頷く。
「ああ、こっちは任せて、おまえはホストにウイルスを組み込んでくれ」
「分かった」
五島は内ポケットからディスクを取り出し、端末のパソコンに挿入した。
その間、恭一は竹野の遺体からネクタイを外し、輪を作ると竹野の首をドアノブに掛けた。
「終わったぞ。そっちはどうだ?」
「こっちも終わった。1時間後にはウイルスが作動して、ホストのデータは破壊される」
2人は、再びサングラスを着けると堂々と正面から研究棟を後にする。
「なあ、警察に追い掛けられねえかな?」
防犯カメラの前を通り過ぎながら、五島は心配気な声を挙げた。
「心配するな。日本側の関係者が居なくなった今、警察は──藪をつついて蛇を出す─ようなマネはしない」
2人はクルマに乗り込み、正門から大学を出て行った。
それから数十分後。突如、ホスト・コンピュータがシステムダウンを起こした。
警備員はすぐに関係者と連絡し、駆けつけた者は直ちに修復を試みる。
だが、コンピュータは立ち上がらないばかりか、内部のハードディスクまで破壊されてしまい、すべてのデータは永久に失われてしまった。
翌日。李邸。
「李さん。これをお願い出来ますか?」
恭一は、数枚のディスクをテーブルの上に置いた。
「これが、今回の成果ですか?」
「ええ。計画の全貌と裏付けとなるバックデータ一式が収まっています」
「分かりました。私の知り合いに渡しておきましょう。
外交部の高官ですから、彼らならこの情報をもっとも効果的に使ってくれるでしょう」
李は快くディスクを引き受けると、何とも名残惜しい顔になった。
「行ってしまわれるのですか?」
恭一も、感慨深い表情だ。
「仕事を終えた今、これ以上の長居はあなたに迷惑を掛けてしまう」
そう云うと、深々と頭を下げた。
「李さん、本当にありがとうございました。あなたに匿っていただいたおかげで、私は勝つことが出来ました」
恭一の言葉に、李は目を細めて彼の手を取った。
「私の方こそお礼を云います。あなたのおかげで、あの蘭を処分出来ましたから」
香港の一件で、蘭英美ことミッシェル・クーはアメリカに帰った。──計画のすべてに、一片の疑いも持たずに。
ところが、オリジナルと思っていたハードディスクを開くと、──トライ・アゲイン─とだけディスプレイに映し出されたのだ。
騙されたのはCIAの方だった。