はるか、風、遠く-18
「辿」
呼ばれ、顔を上げる。
「あ、蓮」
この名を呼ぶのは久しぶりだ。懐かしい。
「すごいな、お前やっぱ。いつも纏め役やって、えらいよ」
「褒めても何も出ないよー?」
照れ笑いで答えた。信じられないくらいちゃんと話せてる。
「ええっ、畜生。折角晩飯ゲットを狙っていたのに」
「あら、じゃあ飴玉くらいなら買って上げるわよ」
「こんな育ち盛りの俺に、飴玉一個で耐えろと?」
「じゃあ二個?」
「お前なぁ…」
一瞬止まる。それから二人同時に吹き出した。蓮と蓬が付き合う前の会話にそっくりで、蓮は変わってないなぁって感じた。
「久しぶりだな、こうやって話すの」
蓮が言う。
「ほんと、懐かしいね」
笑って返事した。校庭から響くホイッスルの音。それが合図のように思えて、あたしは立ち上がった。
「あ、なあ!」
引き止めるように蓮が続ける。調度その時
がらっ
教室の扉が開いた。向けた瞳に映る青年。手には今日も本を持っている。
蓮が何か言っていた。だけどあたしの意識は既にそこにはない。
「遙!」
あたしは遙の元へ走り寄った。優しい笑みがあたしを迎える。
「話し合い終わった?」
「うん、今丁度。あのね、帰り道にお好み焼き屋さんが出来たんだって。帰りに一緒に、行かない?」
これが話し合いが早く終わって欲しかった理由だ。他の誰でもなく、遙と行きたかった。
何故?そう聞かれても困る。だってそれが当然になっているのだもの。
一緒にいて当たり前。傍にいるのが当たり前。それがあたしにとって「遙」という存在。
「いいよ、行こうか」
微笑む遙を窓から零れ落ちた夕日が包んだ。茶の髪が光を弾いて輝いている。
「よかった」
思わずあたしも微笑んだ。安心する時間。辺りを朱に染める光が、更に気持ちを落ち着かせる…
ハッと我に返り教室を見渡した。クラスメートが皆ほうっとした顔であたし達を見ている。
「や、やだ、何よう」
急に恥ずかしくなって取り繕うあたし。頬が熱い…
「やー…、なんかいいなぁって思って」
一人の女の子がポツンと言った。続けて他の子が言う。
「見てるこっちまでホッとする感じがするんだもん」
えへへと頭を掻く。そう言われるとなんだか嬉しい。
「え?付き合ってんの、お前ら」
ある男子が言った。カキーン、とボールがバットにあたった音が辺りに響き、瞬時に沈黙が訪れる。
一番触れたくない部分。関係が崩れるのが恐くてずっと避けてきた部分。
あたしは俯くことしかできない。
「っバカ!」
男子の傍にいた女の子が、バシンと彼をひっぱたいた。男子は訳が分からない様子で、叩かれた部分を押さえてポカンと突っ立っている。
「ごめんね、この能天気が」
あたしはふるふると首を振った。でも正直、ホッとしてる。答えずに済んだから。またずっと一緒にいられると、そう思ったから―…