はるか、風、遠く-14
遙が、……遙があたしを好き?
そんな、困るよ。
だってあたしは蓮が好きなのに。
だけど……
でも、遙は今のあたしに必要な存在。この関係は壊れてほしくない。
ああ、それでも。
気持ちを知ってしまったからには、もう今まで通りではいられないんだ。
そう、蓮達との関係のように――…
「辿!遙くん!」
びくんと体が強ばる。遙が連絡したせいだろう、観覧車の前で蓬と蓮が待っていた。
「楽しかった?観覧車。あ、ねぇ、お土産買った?今から買いに行こうかって言ってたの」
にこにこ微笑みながら蓬が言う。だけどあたしには、返す笑顔が無かった。
だって今もうこの場には、あたしの頼れる人はいないのだから。もう、支えは無いのだから。
「ごめん、蓬……」
え?と首を傾げる蓬。あたしは頭を下げて告げた。
「用事思い出したの、帰るね」
「えっ!?」
言い終えると、呼び止める声も聞かぬまま、あたしは早足で出口に向かう。
もう心はぐちゃぐちゃだった。どうにでもなれと、そう思うくらいに。
ゲートを出る。腕を掲げて太陽を仰いだ。少し雲がかかった太陽は柔らかな光を織っている。
今は三時を過ぎた頃だろう。時計を見る気力すらないから人類の勘による推測だけれど。
ふぅ、と軽い溜息をついた。ここ暫くの間、たくさんのことが起こりすぎている。心の休む暇がない状態が続いている気がする。
「溜息つくと幸せが逃げてっちゃうよ」
驚くあたし。そんなことなど気にも止めず、遙はあたしの横を並んで歩く。
「送る」
困る、なんて言える訳もなく、あたしは俯いたまま無言で歩を進める。
沈黙。久しぶりかもしれない、遙との間で沈黙が訪れるのは。一緒にいるようになってから、蓮達のことを思い出さないために話しまくっていたもの。
「……ごめん」
沈黙を破ったのは遙だった。あたしは彼を見ぬまま話を聞いている。
「本当は言うつもりなんて無かったんだ。ずっと心に封印しておこうって決めてた。でもごめん。辿が俺も辛いと思って泣くの我慢してたって聞いて、そうじゃないって伝えたくて」
遙の声は穏やかで、あんなことがあったなんて微塵も感じさせない。
「だから別に付き合いたいとか俺の気持ちを知ってほしかったとか、そういうんじゃないんだ。ただ頼っていいんだってこと、分かってほしかっただけだから」
そんなの、そんなの無理に決まってる。自分のこと好きな人に、好きでもないのに頼るって、そんなこと……。
「辿は優しいから、気持ちに応えてあげられないのに頼るなんて利用してるだけだとか思うかもしれないけれど、俺はそれで幸せだから。辿が笑っていてくれるだけで、俺は十分なんだ」
脳天が痺れた。利用されても幸せ?そんなことありえる?あたしには無理だ。遙はやっぱり大人なんだと実感させられる。
「でも結果的に辿を困らせるだけになってしまったね。本当にごめん」
気が付くとバス停は目の前だ。丁度一台のバスが発車を待っている。あたしはそのバスに乗り込んだ。しかし遙はバス停に立ったままあたしを見上げている。
「この数日間、一緒にいられて、いろんな話が出来て楽しかった。ありがとう。友達としてで構わないから、本当はもっと一緒にいたかった」
びっくり、した。遙はあたしの心を完璧に読んでいる。もう元の関係でいられないって思ってること、分かってる。