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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-12

「辿」

ほっとさせる声。あたしは顔を上げ、遙を見る。
「折角だから午後はみんなで回らないかって。平気?」
携帯を遠ざけ、遙が聞いた。その顔はあたしを心配した顔。あたしは笑顔を取り繕って、二度頷いた。
一度目は遙に。二度目は自分自身に。
微かに頷き、遙はあたしの頭を撫でた。優しい手つきに固まった心が少し和らぐ。
「蓬?うん、いいって。え?セントラル広場?ああ、分かった」
ぱたん、と携帯を閉じて遙があたしを見つめた。
「今セントラル広場にいるって。行ける?」
「うん」
あたしはパンフレットの地図を片手に歩きだす。遙もあたしに続いた。
すれ違う人々。みんな幸せそうで。なんだか自分がこの空間に居てはいけない気がした。


「あ、あの角曲がったとこみたいだよ」
五分ほど歩いたところで、『←セントラル広場』という看板が目についた。地図と照らし合わせながら角を曲がる。
セントラルという名の通り、この広場は園内の中心にある。そこには噴水と、遊園地のシンボルである時計台がある…はずだった。
でもそんなもの確認する余裕はなかった。始めに目に映ったものがすべてを支配したから。
近くにいた子供の手にあった紅色の風船が、何もない大空へ吸い込まれるように飛んでいった。

………………。

そのまま元来た方へと体を返す。そしてあたしはその場から逃げ出した。少し後ろを歩いていた遙にぶつかりかけ、よろけながら、それでもあたしは走った。
「辿!?」


遙の声。でも止まれなかった。声が出なかった。
苦しくて、息ができない。脳裏に焼き付いた光景があたしの全てを凍らせた。時計台の前でキスをしていた二人の姿が。

息が切れる。どれだけ走ったんだろう?この苦しさで胸の痛みが紛れるかと思ったけれど、そんな予兆は欠片も見られない。
ふらふらする。朝から走りすぎたから?それとも……。
重い体を近くの街灯にもたれかけさせる。冷たい鉄の感触が切なさを倍増させた。
近くを通る子供達の笑い声。あたしだけが取り残されたみたいと考えた途端、見る間に目の前がぼやける。

もう、限界だよ。
一生懸命笑っていたけど、やっぱり辛くって。
遙の為にもって思って頑張った。彼も辛いから。
でも、今はいいでしょう?
遙は今はいない。あたしが泣いても誰にも迷惑かからないから――…

ぐいっ

腕を引っ張られ、あたしは前へ足を踏み出す。訳が分からず視線を上げると、見慣れた背中があった。
「は…るか…」
遙は少しだけ顔をあたしに向け、優しく笑う。
「観覧車、まだ乗ってなかったね」
え?誰も並んでいなかったせいで反抗する暇もなく、あたしは観覧車に乗っけられた。カシャンと鍵のかかる音がし、地面が遠退きはじめる。
向かい合わせのあたし達。あたしは遙の顔を見られず俯いた。
「辿」
遙があたしを呼んだ。


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