魔性の仔C-8
翌朝。
刈谷は那国村へと向かう杣道を進んでいた。──朝早く、日が当たらないため暗い。
約1時間掛けて村の入口に到着した刈谷。
──ここに何かが…。
強い決意を持って、1歩、村に踏み入れる。辺りの景観を見回し、刈谷は異様さに気づいた。
──何故、村人が居ないんだ?
腕時計は7時過ぎを指している。農業で生計を立てているのなら、起きていて間違いない時刻だ。
時期的に農干期とは云え、村人ひとりも出会わないなんてことは考えられない。
刈谷は1家1家、民家を訪ねたが、人が居る気配も無かった。
──仕方ないな…とりあえず、昨日の寺院に行って見るか。
思案にくれた刈谷は寺院へと歩いて行った。
──そういえば、昨日も居なかった…何故…?
土茶色の堀が見えてきた。
巨大な門に向かっていると、堀に行き着く手前に小さな小道がある。
──なんだ?ここは。
刈谷は奥へと入って行った。
すると、狭い道から一転、広い平坦地が現れた。
異様な場所。──大小、様々な石が並んでいる。
──ここは…墓跡か…。
刈谷は広場を歩いて眺めた。墓碑と思われるモノは数百に渡り、角が丸く苔むした古いモノから、最近刻まれたと思われる立方体のモノまで色々だ。
その古そうな墓碑の前に刈谷はしゃがみ込み、指で苔を拭い取る。
──承久って…こっちは元徳…。
蒼白の顔のまま、刈谷は墓碑に刻まれた文字を読む。──嘘であってほしい─そんな思いで。
──こいつは寛永…400年前だ。
刈谷の中で馬遥遷の言葉が甦る。ここは、800年以上もの間、村として成り立っていたのだ。
だが、そこで疑問が湧き上がった。
──ここの者は、何故、祖先を寺院で弔わないんだ?
ひょっとしたら…。
刈谷の背中に冷たいモノが走った。
その瞬間、彼は強い衝撃を後頭部に受けて気を失った。
「刈谷さん、遅いわねえ」
中尊寺はコッテージの窓から外を眺めてため息を吐いた。
辺りは、茜色から漆黒へと装いを変えつつある。
早朝に出かけ──夕方には戻る─と云った刈谷。すでに2時間近くオーバーしている。
普段の刈谷なら、連絡を入れてくれるのだがそんな様子も無い。