青かった日々-7
「次は、古典だよ」
そう言いながら彼女に見せられた教科書には、大きく「公民」と書かれていた。
長い髪に読者好き。
悟史は今年のクラス替えで初めて遠藤 梓(えんどう あずさ)と一緒になって抱いた印象がそれだったが、悟史の想像ほど彼女は内向的ではなかったらしく、今ではこのようなやり取りをすることもある。
夏美を除けば、この学校では一番親しい女の子かもしれないと悟史は思う。
数日でそこまで登りつめられるほどの彼の女の子関係については割愛しておくが。
隣でまだくすくすと笑っている彼女の顔は、人を馬鹿にしたような感情は無く、純粋に悟史の行為を面白がっており、悟史はその顔から、純粋に彼女は日向の道を歩いて育ってきたんだなと感じていた。
言われた通りに古典の用意をしながら、二人は些細なことを話す。
特に長い休み時間というわけでも無いので、二人が話すのは発展性の無い話題がほとんどだ。
ただ、悟史としてはどんなに小さなことでも彼女のことを知ることが出来るのが、何故だろうか本人もわからなかったが、嬉しかった。
それは、例えば相手をもっと知りたい。お互いの距離を近付けたいという能動的な感情ではなく、受動的なものだろう。
まるで言葉遊びのように。
わたしは誰?
お互いにその問いを投げ掛け、お互いにヒントを出し合う。そんな関係。それは、悟史にとっても梓にとっても新鮮な関係であった。
チャイムより早く教師が入ってきたため、生徒達は雑談を切り上げて席につく。二人も例外ではなく。
後ろで雑誌を読んでいた直人は、そんな二人の様子と、授業の準備を始めた夏美を見て、少しだけ眉をしかめていた。
昼休みになり、早退をした悟史は校門前で迎えを待っていた。
せっかく忘れかけていた不安がまたもや顔を覗かせているのが、彼の表情から簡単に見てとることができる。
「はあ」
どんな悩みでもちっぽけに見えるような晴天の下で、憂鬱になる少年。人通りも無いため、誰も少年に気付く者はいない。
悟史がうなだれてから十分程経ち、首の疲れを取るために頭を上げた時、前方から白の軽トラックが走ってくるのが見えた。
悟史が呆けた顔で見ていると、トラックは目の前で止まり、運転席のドアが開いた。