青かった日々-10
やはり今回の主賓というだけあって、聡史は色々と質問攻めにあった。
頭はいいのか。から始まり、家族構成、姉がいるというと何人かの男たちは紹介しろとうるさく(無論明も)、果ては彼女はいるのかと散々にいじり回された。
一通りの通過儀礼を終えた頃には、成人組は最早出来上がっており、酒を飲みながら世間話に花を咲かせている。
聡史は設置した椅子に座りながら、紙コップに入った黒い液体を喉に流す。
それがコーラではなくコーラ割りだと気付いた時には、もう液体は喉を通過しており、多少むせながらも全てを嚥下(えんげ)した。
椅子は、テーブルと共に庭に植えられた一本の桜の下に設置されている。
時刻は七時過ぎ。夜桜を見ながらの酒は中々にオツだった。
風が吹き、桜の花びらが舞う。
聡史は一片の桜を視線で追うと、花びらはアパートの入口辺りで地面に落ちた。
誰かの靴が視界に入り、顔を上げる。
梓がいた。
「遠藤」
聡史自身何が起こったかわからず、酒の力も相まって、ただ名字を呼ぶのが精一杯だった。
梓は教室で見せた様な、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべると、聡史の元へと歩み寄る。
風が強くて、花びらが更に舞う。
住人達の声が、聞こえなくなった。
梓の姿は段々と大きくなり、テーブルを挟んで向かい合う。
彼女は少しだけ間を置くと、恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに。
「ようこそ、山野辺荘へ」
と言って、笑った。