光の風 〈占者篇〉-3
「国王としての責任ね。」
「もちろんだ。」
返事は早かった。幼い頃からずっと傍で見てきた小さな王は、今ではすっかり大きく成長して立派になっている。
嬉しさと淋しさと、誇らしい気持ちがナルの全身を駆け抜けた。
本当に逞しくなった。
「国王陛下。」
そう言うとナルはお辞儀をしてみせる。
「長い間、お世話になりました。」
ナルから切り出された別れの言葉。しわの深い手でスカートを掴み、少し屈むようにしてみせた。少し低めの穏やかな声、灰色のきれいな瞳、くるくるとした白色の短い髪の毛。今では全てが愛しく感じる。
本当なら抱きしめて最後の別れを惜しみたかった。しかしナルは占者として最期を迎えようとしている。カルサは王として応えなくてはいけない。
「顔を上げろ、ナル。」
王の言葉にナルは従った。
「これまでよく仕えてくれた、礼を言う。」
時間があるならば伝えたいことは沢山あった。共に分かち合いたい思い出は山ほどある。
全てを抑えて出した言葉がそれだった。王として伝えられる感謝の気持ちはそれだった。
光が強くなり、ナルの表情も分かり辛くなってきた。しかしきっと彼女は笑っている、そんな気がする。
「陛下、失礼致します。」
彼女はそう言い残し、光と共に空へと上っていった。静かにそれを見送る。まるで景色に溶け込むように光は瞬きの間に消えてしまった。
「ナル様!」
レプリカが手で顔を覆い泣き崩れた。それを追うように皆俯く。
カルサだけが、いつまでもナルを見送り続けた。そして彼だけが気付く。ナルの光が消えた後に一瞬現れた人の姿に。
それは懐かしい人物、カルサは心の中で放った言葉があった。
ナルを頼む。
その言葉を受け取ったかどうかは定かではないが、その後、その人は姿を消した。
「冥界の使者ですね。」
千羅が小さく呟いた。カルサも同じように肯定の言葉を呟く。
「冥界人が迎えにくる程、高貴な人だった。そういう事ね。」
圭の声にやっと意識を地上に戻した。見上げたままの態勢を直す。