loopV-8
「―――あぁ、睦月かぁ。どうしたの?」
そう言った由紀の間延びした口調はいつもと変わらず、先程見せた無機質な顔は一瞬にしてどこかに消えていた。
あたしは胸が急に苦しくなるのを感じて、それを紛らわせるためにきゅっと手を握りしめる。
「…ケイタイ、忘れたみたいで。」
やっと喉から絞り出た言葉はかすれていて、あたしはドジだよねー、と誤魔化すように笑ったけれど、うまくいった自信がなかった。
「…あぁ、あれかな。」
あたしの空笑いに気付く素振りも見せず、由紀は立ち上がって後ろの席に歩いていき、机の上にぽつんと置き去りになっていた携帯電話を持ち上げた。
「あ、それだ。」
「睦月ー、しっかりしないと。」
「ごめん、ごめん。」
はい、と携帯電話を渡され、一瞬由紀の手があたしと触れて、そのあまりの冷たさにぞくりとした。
驚きのあまり、由紀の目を見上げると、いつもと変わらない彼がそこにいて、でもその目はあたしをちゃんと見ているはずなのに、どこか遠く、あたしをすり抜けていた。
これは由紀だろうか?
彼はこんな目をしていただろうか?
あたしの知っている今までの由紀は、本当に彼なのだろうか?
頭の中に次から次へと疑問が駆け巡る。
ぎゅっと手のひらに握りしめられた携帯電話のストラップがゆらゆらと頼りなさげに揺れていた。
祐介と由紀と、随分前に三人でお揃いで買ったストラップは薄汚れてくたくたになっていた。
周りから「それ、もうそろそろ替えたら?」と言われても、あたしは頑なに変えなかった。
なぜだろう?
三人のお揃いだから?
お気に入りだったから?
三人の仲良しだという証だから?
でも、もうこんなにくたびれている。
まるで、今のあたしを表すみたいに。
もう三人で友達でいることに限界を感じているかのように。
「睦月?」
怪訝そうにあたしを覗き込む由紀と再び目が合った。
そんな目で見ないで。
ちゃんと、あたしを見て。
今まで抱えていた脆いものが、小さな衝撃で、確かに崩れていくのを、あたしは感じた。