やっぱすっきゃねん!VI-1
青葉中の3回戦。相手は練習試合で対戦した多島中。
試合前、両チームのアップが続く中、佳代は青葉中関係者が集まる3塁側のスタンドにいた。
傍には尚美に有理、健司と加奈、そして一哉が座っていた。
今朝のミーティング。永井はベンチ入りメンバーを発表した。
「1番サード乾、2番レフト足立、3番……」
読み挙げられたメンバーの表情が引き締まる。
「…8番セカンド和田、9番ライト加賀」
──エッ?
部員の中にざわめきが起きた。レギュラーの佳代でなく、センターに淳を据え、守備力のある加賀をライトに回したのだ。
打力の有る淳を、抑えピッチャーだけに使うのは勿体無いと永井は思ったからだ。
「次に控え7名をだが…」
佳代は俯くと奥歯を噛む。知らぬうちに拳は固く握られ、目頭が熱くなる。
一哉は、永井のとなりで部員達の動揺を黙って見つめていた。
──明日の試合、澤田を外します。
永井から連絡を受けたのは昨夜だった。一哉自身は別の意見を持っていたが、
「先日の2回戦、藤野さんの提言を受け入れて澤田を投げさせたんですが、はっきり云って使える段階じゃありません」
「ライトに使うのも無理なんですか?」
意見を述べた一哉の耳に永井のため息が聞こえた。
「そっちも崩してしまって…ピッチングにかまけるあまり、バッティングにも影響してるようです」「…なるほど」
「だから、1度外すことで奮起を促したいんですッ」
──そういう考えか…。
苦渋な永井の思いを聞き、一哉は納得した。
結局、佳代の名前は最後まで挙がらなかった。
球場のファウルゾーン。アップを続ける仲間から離れ、直也は永井に近づいた。
「監督ッ、何で澤田を外したんですか?」
その口調は静かだが、目は永井を睨んでいる。
「オイッ、よせって…」
傍にいた淳が慌てて間に入り、直也を止めた。
「使えない者は使わない。それだけだ…」
永井の言葉に、直也は強い苛立ちを感じた。
「ちょっと調子を落としたからって、見捨てるつもりですかッ」
「もう止めろッ!試合前だろう」
淳は、必死の形相で直也を止めた。が、云われた永井は厳しい顔で思いを放つ。
「メンバーを決めるのはオレの仕事だ。おまえらが口を挟む問題じゃないッ」
騒ぎに、他のメンバーも集まりだした。永井は手を鳴らして注目を集め、
「何でもないぞッ!構わずアップを続けろ」
指示に、メンバーは元の場所に戻っていく。永井は直也に視線を移した。