傾城のごとく〜a Children's story〜-5
「えっ?」
気がついたおばあさんは、まわりを見まわします。
いつものへやの中。そこはおばあさんのお家でした。
「なんだい。ねむってしまったのかね」
おばあさんは、大きなため息をつきました。
ひとりで暮らすことが、さびしく思えたのです。
そばでねていたミーちゃんが、心配そうにおばあさんの顔を見つめていました。
「ミーちゃん」
おばあさんは、ミーちゃんのあたまをやさしくなでます。
でも、ミーちゃんはあまりおばあさんのことを心配していません。
それがしょうこに、ミーちゃんはまたねてしまいました。
「今日は、このへんにしとこうかねえ」
おばあさんが、あみ物をやめようとすると、電話が鳴りだしました。
座イスを立ったおばあさんは、電話を取ります。
聞こえてきたのは、おばあさんにとって嬉しくなる声でした。
「あっ、おばあちゃん!わたしよ、エリよ!」
いちばん上のお孫さんのエリの声でした。
「うわあ!ひさしぶりだねえ」
「おばあちゃんの声が聞きたくなったの。今、マリアにかわるね」
おばあさんの耳には、つぎつぎと家族のなつかしい声が聞こえます。
そして、さいごに聞こえて来たのです。
「かあちゃん。元気にしてたか?」
おばあさんの息子さんの声でした。
「あんた、どうしたの?」
おばあさんは心配そうな声で聞きました。でも、息子さんの声は笑っています。
「かあちゃん。近いうちにみんなをつれて帰るから。いっしょに暮らしてくれるか?」
ミーちゃんは知っていました。服をあんでくれたなかまたちが、恩がえしをしてくれたのだと。
もうすぐ冬がおとずれます。でも、おばあさんの心の中は、冬を飛びこえて春のようにウキウキしていました。
そして猫たちは、仲間のために、あみ物じょうずなおばあさんをさがすのです。
…「傾城のごとく〜a children'story〜」完…