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のたうつ大陸
【ミステリー その他小説】

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のたうつ大陸-1

 もう日が暮れて久しいというのにむせ返るような熱気の中、私は飛行機のタラップを降りた。やはりアフリカの暑さは質が違う。ここはコンゴ民主共和国の首都、キンシャサだ。もちろん遊びに来たわけではない。これから2年間、私にはNGOの医療活動という重い任務が待っている。そんな緊張感を噛みしめながら、私は迎えに来てくれているはずの同僚のナオを捜していた。
「しばらくだね、ミサキ」
「ナオ、ずいぶん精悍になったね。わかんなかったよ」
 ナオは大学時代からの友人だ。運転手付きのクーラーの効いた四駆でラ・ゴンベ地区に向かう。そこには官庁、商店、高級住宅等が建ち並び、この首都キンシャサでは最も安全性の高い地区である。私たちNGOもここで活動している。



 私たちが出会ったのは2001年のインド西部地震、グジャラートでだ。2人ともまだ学生で、初めて海外のNGO活動に参加した。ほとんど戦力にはならなかったが、私たちには貴重な体験だった。私たちはそこでビジネス化した欧米のNGOの実態を垣間見た。
 欧米のNGOは事があると真っ先に駆けつける。結果、メディアの注目を浴びる。しかし、引き揚げるのも案外早い。一方、日本のNGOは立ち上がりこそ遅いものの粘り強く活動を続ける。最後まで現地にとどまり住民の健康やメンタル面をケアし続けたのは日本のNGOだった。だから現地の人たちには感謝されたわけだが、メディアには取り上げられなかった。

 ナオは大学を卒業すると、フランスのNGO養成スクールに進んだ。フランスはプロフェッショナリズムを掲げて専門化路線をひた走るNGO最先進国だ。そこで凄まじいスケジュールをこなし終えた者だけが実働要員に選抜され、主にフランス語圏の途上地域に派遣されて現地スタッフを雇い統括する。現地スタッフとの間に築かれる強固な上下関係には批判も多い。しかし、フランスはこのやり方こそ最も効果的であると考える。ナオはフランス語を磨いて教育部門に携わる道を選んだ。
 私の方は医学部を卒業して長崎大学の熱帯医療研究会に進んだ。実地の臨床を体験してみたい気持ちもあり、またインドでの経験やナオのこともあって、私もナオの道を追うことにした。キャリアに少しばかり箔を付けたいという思いもあった。要するにナオのような純粋な動機ではなく、自分のためである。でも私は、一途なナオを尊敬していた。

 ナオに遅れること3年、私はなんとか養成スクールの履修を終え、2年間キンシャサに派遣されることになった。この間にナオはすでに華々しい実績を挙げていた。ナオの最初の赴任地は、コンゴ共和国のブラザビル。ここでナオは現地の教育活動だけでなく、大統領の不正蓄財を追及する。フランスの法律では、公金を盗んでフランス領内で蓄財することが禁止されている。パリやニースなどに大邸宅を構えたりするのだが、本人は大統領特権に守られている。しかし、その不正蓄財には家族名義のものも多い。ナオたちのNGOはそれを調べ上げて法廷に提訴した。この活動が波紋を呼び、元フランス領ハイチの軍事独裁者の有する資産凍結の解除延期をスイス政府が決定した。ナオたちの活動が欧州中に広がりを見せはじめたのだ。
 ところがこの間にコンゴ民主共和国の政情が急激に悪化する。東部の町で元ルワンダ愛国戦線の兵士やツチ族の部隊が国連コンゴ監視団を襲撃した。東部にはフツ族が多く暮らし、ルワンダ内戦がコンゴにまで飛び火した格好になった。これにより緊急援助が必要となったコンゴの首都キンシャサや東部の拠点ゴマにフランスを中心としたNGOが集結する。ここもフランス語圏なのだ。そこで急遽ナオがキンシャサに呼ばれ、私も医療事情改善のために呼ばれた。


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