『It's A Wonderful World 3 』-5
「シュン!!!!」
「痛っ!」
今日、三度目となる衝撃。
アゴがガクガク震える。
「だからメリケンで殴るなって!!!」
「またネガティブなこと考えてたろ!」
「いや、どっちかっていうと前向きだ」
生ゴミを前向きに考えられる僕って…。
ちょっぴり悲しくなった。
「まあ、俺が言いたいのはさ」
マサキはおほんとセキをして、わざとらしく一呼吸置いた。
「今、釣り合わなくても、がんばって、がんばって、死ぬほどがんばって、汗水たらして、血を吐くほどがんばって、努力してよう―」
顔に血管が浮き出るほど力説するマサキ。
「仁美さんに釣り合う男になればいいんじゃねえのかあ!?」
「そんな努力はしたくない」
僕は酷く冷静にマサキを切り捨てた。
だが、しかし。
仁美さんと釣り合う男、か。
ふむ。
「シュン!!! 昔のお前はもっと熱い男だったろうが! どんな状況でも努力と根性で乗り越える男だったろうが!!!!」
「昔の僕は死んだ」
そうあんな暑苦しい自分は遠い過去の存在だ。
「何言ってんだよ! また昔みたいに熱くなれよ! 俺は、俺は…!」
何かを堪えるようにマサキはうつむく。
「俺は、昔の熱かったシュンが、好きだったんだ…」
「は?」
僕は全身の肌が粟立つのを感じた。
「ちょ! 何青くなってんだよ!? そういう意味の好きじゃねえって!!!」
「え、うん、ワカッテルヨ…」
そう言いながら僕は無意識のうちにマサキとの距離をとる。
「おまっ! 離れるなって!」
がしっとマサキに肩をつかまれた。
万力のような力で、僕は身動きを取ることはできない。
あれ、なんだこれ。
なんだこの状況?
「マサキ、近い…」
「おっと、悪い」
ぱっとマサキが離れる。
なぜかマサキの顔は真っ赤だった。
「お前が妙な誤解するからよ。ははは。ふう、ちょっと暑くね? この部屋」
「ま、窓開けようか」
「お、おう」
ベットの上にある窓を開けながら、僕の脳裏には鐘の音が鳴り響いていた。
遠い未来。
荘厳な聖堂の中に立つ二人。
それはいつか僕が迎えるであろうエンディング。
身近すぎてお互いの大切さに気づかなかった二人。
そんな二人はある出来事を境に急激にお互いの距離を縮めた。
そう。
僕がとある女性に片思いをして。
その女性はとんでもなく高嶺の花で。
見向きもされなかった僕は、傷心の底に沈んでいた。
でも、そんな僕を幼馴染が立ち直らせてくれた。
いつの間にか、僕の一番大切な人になっていた幼馴染。
『お前のためにモロッコ行ってきたぜ』
そう、僕の幼馴染は性転換の聖地モロッコへと行き………。
……。
…。
「イヤだあああああああああああ!!!」
「シュン!?」
ダメだ!
このままではマサキENDを迎えてしまう!
いわゆるバッドエンドだ。