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『It's A Wonderful World』
【コメディ 恋愛小説】

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『It's A Wonderful World 3 』-2

 「別に、仁美さんにフられたわけじゃないだろ!?」
 マサキの声は大きかった。
 1階から父の声も聞こえた。
 時間は19時。
 僕の家族は皆、家にいる時間だ。
 「お前が、惚れてる仁美明日香に、告ってフられたわけじゃねえだろうがああああ!」
 「お前、ちょっと黙れ」
 完全に、下に聞こえるようにマサキは叫んだ。
 「黙るって何をだ!? 桐山シュンが同じクラスの仁美明日香さんに惚れてるってことを黙れって言うのかあああああああああ!?」
 「わざとだな、わざとなんだな!?」
 僕は親友の息の根を止める決意をした。
 「ていうか、シュンよ。俺が言いたいのはな…」
 突然、マサキの目つきが鋭くなった。
 そんな親友の次の言葉に、僕は息を飲む。
 「被害者面してんじゃねえよ! ってことだ」
 「…ちょっと待て」
 僕が被害者じゃないとでも言うのか。
 え、なにこれ。
 なんかアキヒロのせいにしてた僕が悪者っぽくなってる。
 いや、どう考えてもアキヒロのせいなんだけど。
 「自分の恋路が上手く行かないのを他人のせいにして、ウジウジひねくれて、オカマかお前は!!!」
 「全国のオカマの人に謝れ」
 「とにかく! お前が自分を哀れんで自殺したところで世の中は全く変わらないということだ!」
 「話がぜんぜん繋がってないぞ…」
 なんかよくわからないけど。
 僕が間違ってるみたいな方向に行ってる…?
 「前に、進めよ」
 前ってどこだよ。
 マサキの言おうとしていることがイマイチわからない。
 そんな時。
 階段を物凄い勢いで上がってくる大きな足音がした。
 「シュン!!!!」
 扉を開け放ったのは、黒い目だし帽を被った銀行強盗のような大男だった。
 「わざとじゃないんだ!」
 アキヒロはいきなり言い訳を始めた。
 「つい気が動転しちゃって、お前の名前出しちゃったけど、桐山シュンっていうイケメンがこないだお婆さんの手をひいて横断歩道を渡ってるのを見たって言おうとしたんだ! 自分の正体がバレた、あの状況でも、俺はお前のイメージアップを考えていたんだ!!」
 アキヒロの言い訳は長かった。 
 「帰れ」
 僕はそれだけ言うのがやっとだった。
 少しでも気を抜くと、この銀行強盗を亡き者にしてしまいそうで。
 「アキヒロ、お前って奴は…」
 マサキが感きわまった声をあげる。
 「こんな時間まで何やってたんだよ!? こんなにボロボロになって…」
 「校門で気絶してたんだ」
 マサキがアキヒロに駆け寄って肩をさすっている。
 ていうか、マサキも気絶したアキヒロを放置して俺んちに来たんじゃないのか。
 「お前、シュンのためにそこまで…!? 馬鹿野郎だよ、お前って奴は…、最高のバカヤロウだ…」
 「わかってるよ、自分でも。けど、シュンのためだって思うと体が勝手によ…」
 自嘲した笑いを見せるアキヒロ。
 涙を溢れそうにまでして感動するマサキ。
 「帰れ」
 僕は二人のコントを見て、冷静に言った。
 「お前って奴は、どこまでクールなんだ!?」
 「そうだそうだ!」
 二人は理不尽な怒りを僕にぶつけた。
 こいつらはアレか、ゆとり世代か。
 「シュン、俺だって悪いと思ってるんだぜ?」
 アキヒロがすまなそうに肩をすくめる。
 あれだけのことをして、それだけか。
 そんなんで済んだら、警察はいらない、どころか死刑制度はいらない。


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