音姫物語-5
雪踏めど
見すことあえず
音姫よ
其は絶えぬ吾の
心奪ひて
また会いに来ましたが、御簾越しにすら見すことできず、されど音姫。
そなたの絶えることなき音色全てが、我の心を奪ってゆくのです。
……こんなこと、……初めて。
……高鳴った胸が刻む鼓動は熱くてとてもうるさい。
なんというのだろう…この気持ち。
「螢さま、恋してますね」
ふふっと笑う若菜が全ての答えのような気がした。
あれから御簾のなか、屋敷のなかで琴や笛を奏で過ごせど、普段から野にでている私にはさみしいばかり。
童たちや農家の皆が気になってしまう。
……初雪の君には会いたくても、一人いるのはさみしくてたまらない。
けれど屋敷で忙しなく動く若菜に話し相手だけのために側にいてなど言えるわけがない。
若菜と一緒に屋敷で動きたくも、若菜はすっかり張り切ってしまって働かせてもらえない。
夜の闇も濃くなり、閨にはさすがに来ないだろうと久しぶりに野に出た。
御簾越しに見た月より、やはり実際に見た月の方が美しい。
じんわりと汗に濡れた肌が厭わしくて、つい手で拭うように擦ってしまう。
…あ、……そうだ。
パッと思いついて足の先を変えた。
少しばかり足を伸ばすけれど、行ってみよう。