音姫物語-2
若菜に渡された文の紙は上質なものなのか柔らかく、香を焚きこめたのかいい薫りがした。
こんなの、初めて…
どうしよう。
顔も名も知らぬ方に贈られた歌がこんなにも嬉しいだなんて、噂に聞いてはいてもまさか思ってもいなかった。
どこで聞いていらしたのだろう、琴だろうか…笛だろうか…。
姫音などと称賛されるほど、上手いなどと思わぬけれど……少し自惚れてしまう。
「若菜…」
「はい!姫さま」
「……そんな張り切らないで、恥ずかしい」
「いえいえ、姫さまの慶事ですもの。若菜は嬉しゅうございます」
「ありがとう……あの、どんな、殿方だったの、かしら」
恥ずかしさに耐えながら消え入りそうな思いで若菜に訪ねると、若菜は少し困ったような顔になってしまった。
「それが、若菜も使者の方越しで…聞く暇もなく、どんな方かは…」
「……そう、」
「螢さま……!あ!けれどまた来てくださると若菜にはわかります!」
「…どうして?若菜 」
「歌です、ほら、螢さま、我が耳にのみ紐ときてと!」
「この方にだけは聞こえたのね、私の音が…」
「そうです、それに」
「……あ、」
わかった瞬間、顔が燃えるかと思うほど。
歌にはあからさまではないが、自分だけがこの音色の主を知るままでありたい、そのような願いまでも込められていたのだ。
……また…、来て、くださるの?
「若菜、私、私も歌を贈りたい……また来てくださったときのため、歌を、書いておきたいの」
「はい!姫さま」
にっこりと笑い、私を姫と呼ぶ若菜に、どこか照れる気持ちはあっても待ち焦がれ応えたい気持ちの方が大きかった。